JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC07] [EJ] 人間環境と災害リスク

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)、須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)

14:45 〜 15:00

[HSC07-05] 静岡県沿岸平野における都市域拡大に伴う津波災害リスクの増大と地形認識の重要性

*佐藤 和也1須貝 俊彦1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)

キーワード:津波、沿岸平野、人口集中地区、地形条件、災害リスク

南海トラフ沿いでは、90〜150年の間隔で海溝型地震が繰り返し発生しており、昭和東南海地震や昭和南海地震の発生から70年以上経過している。このため、東南海沿岸地域では、南海トラフ巨大地震津波への対応が喫緊の課題となっている(静岡県, 2013)。なかでも、静岡県沿岸地域は、太平洋ベルト地帯を構成し、過去70年間で急速に開発が進んできたため、開発に伴う災害リスクの増大が懸念される。
 本研究は、静岡県の代表的な浜堤平野である、浜松低地、清水低地、浮島ヶ原低地を対象として、人口集中地区(DID)の時間変化と地形条件の関係を明らかにし、それに伴う津波災害リスクの変化について考察することを目的とした。本研究では、地形条件として、空中写真判読に基づき作成した地形分類図と数値標高モデル(DEM)を使用した。都市域拡大の指標として、1960年から2005年までの15年ごとの DIDデータを使用した。災害脆弱性の高い被害対象の指標として、小中高等学校の立地年代と場所に着目した。津波浸水の指標として、安政東海地震推定津波浸水域(静岡県, 2001)、南海トラフ地震想定津波浸水域(静岡県, 2013)を使用した。上記の各データをGIS上で重ね合わせ、解析を行った。
 地形条件とDID拡大過程の関係を検討した結果、以下の2パターンが認められた。(A)まず、砂州上の比較的大きな集落がDIDに指定され、次に、主に砂州上でDIDが拡大し、さらに砂州に隣接する後背湿地や扇状地、丘陵地などへDIDが拡大する。(B)浜堤平野外に立地する都市からの影響が及び、都市に近接する平野縁辺域からDIDが拡がる。清水ではA、浮島ヶ原ではB、浜松ではA, Bの両方がそれぞれ認められた。
 安政東海地震推定津波浸水域・南海トラフ地震想定津波浸水域と1960, 75, 90, 2005年のDIDとを比較した結果、浸水域となるDIDの面積(以下、浸水DIDと略記)は、3地域とも経年的に増加することが明らかとなった。より詳細に見ると、清水では、1960年までに低地の開発が進み、浸水DIDが広くなっていた。その後、開発は主に丘陵地に移ったため、浸水DIDの増加は鈍化した。浜松では、1960年以降、浸水DIDが拡大し続けている。浮島ヶ原では、1975年に浸水DIDが発生し、それ以降増加しているが、津波浸水域面積は3地域で最少と推定されていて、浸水DIDの絶対面積は狭い。
 各地域における安政東海地震推定津波浸水域・南海トラフ地震想定津波浸水域と学校の立地を比較した結果、浜松では安政東海地震津波で5校、南海トラフ地震津波で9校、清水では安政東海地震津波で3校、南海トラフ地震津波で5校が浸水域内に立地することが明らかになった。特に、清水では、安政東海地震津波で浸水する3校、南海トラフ地震津波で浸水する5校がすべて小学校であり、津波災害に対し脆弱であると考えられる。
 上記の3つの浜堤平野では、砂州は、周辺の後背湿地よりも数~10 m高い。① 同平野における南海トラフ地震想定津波高が数~十数m程度であることと、② 浸水深が2 mを超えると建物の流出率が急上昇すること(林ほか,2013など)を合わせて考えると、砂州と後背湿地の間に存在する数~10 mの比高は、津波被害軽減のために極めて重要な意味を持つ。砂州は、縁辺部を除けば一般に後背湿地よりも地盤条件が良いことに加えて、海岸線にほぼ並行して弧状ないし直線上に発達するため、分布の広がりをイメージしやすい。海岸線から高台まで距離がある(奥行きがある)浜堤平野では、効果的な津波防災のために、① 全住民が砂州を中心とした地形認識を共有し、② 長期的には、想定津波浸水域に立地する災害脆弱施設(小学校を含む)の砂州への移転などを目指した砂州の再開発を検討すべきであろう。
引用文献
UNDP:2012 「Reducing Disaster Risk, A Challenge for Development」、
静岡県:2001「第3次地震被害想定」
静岡県:2013「第4次地震被害想定」
林里美・成田裕也・越村俊一:2013「東日本大震災における建物被害データと数値解析の統合による津波被害関数」