JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:中野 孝教(総合地球環境学研究所)

09:15 〜 09:30

[HTT23-02] 山梨県忍野村の地下水流動調査-第1報 忍野村の浅層および深層地下水の水質と安定同位体の特徴について-

*藪崎 志穂1,3谷口 真人1陀安 一郎1秋道 智彌1大森 昇2後藤 健2古谷 修一2渡邉 宗一郎2 (1.総合地球環境学研究所、2.忍野村役場、3.福島大学)

キーワード:忍野村、忍野八海、地下水流動、水質、安定同位体、微量元素

山梨県南部に位置する忍野村は標高約936 mに位置し,東西約8 km,南北約4 kmで,村内には世界文化遺産の構成資産の一つでもある忍野八海があり,四季を通じて多くの観光客が訪れている。忍野八海についてはこれまで複数の調査が行われており,水質の特徴から富士山で涵養された湧水であることが示されている。しかし忍野八海の中でも水質が異なる湧水があり,地下水流動系の違いを反映している可能性が指摘されている。また,村内の地形の状況から,富士山周辺で涵養された地下水と,東の山地で涵養された地下水の存在が考えられるが,詳細な地下水流動調査は実施されておらず,涵養域や滞留時間については明らかとなっていない。こうしたことから,本研究では,忍野村にある忍野八海を含めた湧水,および民家や自治体の井戸水の調査・採水を実施し,水質の特徴を明らかにしたうえで村内の詳細な地下水流動,涵養域の把握ならびに滞留時間を推定することを目的とした。本発表では,1回目の調査の結果,明らかとなった地下水および湧水の水質の特徴を中心に報告する。
調査は2017年1月18~19日に実施した。調査地点はできるだけ広範囲に及ぶように選択し,忍野八海,自治体の観測井や水源井,民家の井戸など,併せて72地点を対象とした。現地ではEC(電気伝導率),pH,水温,ORP,地下水位(可能な地点)を測定し,同時に水質分析用の採水も行った。水試料は採取後,速やかに0.20 μmのシリンジフィルターを用いてろ過を行い,微量元素分析およびSr同位体分析用の試料には濃硝酸を少量添加した。水質測定項目は,溶存無機イオン(ICS-3000),HCO3-(pH4.8アルカリ度滴定法),酸素・水素安定同位体比(L2130-i),微量元素(Agilent 7500cx),Sr同位体比(MC-ICPMS予定)である。現地調査および水質測定の結果,以下の特徴を把握できた。
1) 忍野八海の水質は,お釜池,銚子池,濁池,湧池,鏡池,菖蒲池,底抜池のカ所の湧水池はほぼ同様の水質を示しているが(EC:20~23 mS/m),出口池ではがやや低く(約16 mS/m),δ18O・δDも相対的に低くなっている。またSi,P,V,Srなどの微量元素の濃度にも若干の違いが認められる。出口池は他の湧水群から南方に約離れた標高がやや高い場所に位置しており,異なった地下水流動系である可能性が高い。今後,3H等の分析を行うことにより,流動系や年代の違いなどを検討する。
2) 地下水の水質組成は,基本的にはCa-HCO3型を示しているが,細かく見ると,Caが多いタイプと,NaあるいはMgが多いタイプが存在している。また溶存成分量が多い地点と少ない地点が混在しており,傾向として村の中央では相対的に少なく,西部と東部の一部地域で多くなっている。溶存成分量は深度による違いよりも,場所による違いのほうが大きく,このことからも異なる地下水流動系の存在が予想される。
3) 浅井戸の一部地点ではNO3-を比較的多く含んでおり,地表面の土地利用の影響(農地への施肥の影響など)が表れていると考えられる。また,FeやMn等が多く含まれている地下水があり,地質起源と考えられる。
4) 深さ100 mの深井戸や,浅井戸の一部地点では,pHが8.2以上のアルカリ性を示し,VやP濃度が相対的に高く,δ18O・δDが相対的に低い値を示している。これらは富士山で涵養された地下水である可能性が高い。富士山起源とそれ以外の山地で涵養された地下水では地質の違いにより同位体比が異なることが予想される。今後,Sr同位体比の測定を行った後,更に検討を進める。
5) 地下水および湧水のδ18Oは-12~-7‰,δDは-80~-50‰と範囲が広くなっており,涵養域の違いを反映していると考えられる。ECとδ18Oの関係をプロットした図より,大きく3つに区分できた。今後,この区分と水質,微量元素等を併せて考察し,地下水流動系の把握に活用してゆく。また,δダイアグラムの回帰線はδD=6.2δ18O-5.0(r2=0.969)である。
6) 村の北西部でNa-SO4型を示す自噴井があり,この水温は約19℃と相対的に高い。δ18O,δDは相対的に低く,Vも殆ど含まれておらず,周囲の地下水とは明らかに異なる特徴を有している。地下深部起源の鉱泉の可能性も考えられ,今後,微量元素や同位体等の結果から起源について更に検討を進める。
7) 地下水位を測定できた地点の地下水面等高線図を作成したところ,地下水位は村内の東側で相対的に高く,西にゆくに従い低くなる傾向が認められ,地下水の流線は東部と西部で独立した結果となった。東部では南東から北西方向に流下しており,東側の山地(杓子山や石割山方面)からの地下水流動系の存在が示唆された。一方,中央部と西部では南から北に流下する流れが確認され,富士山方面からの地下水流動系であることが考えられる。地下水位は年春および秋にも観測し,季節変化を確認する。
 今回の結果について引き続き考察・検討を行い,忍野村の詳細な地下水流動の解明に努めてゆく。