JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:中野 孝教(総合地球環境学研究所)

09:45 〜 10:00

[HTT23-04] 天山山脈ウルムチNo.1氷河表面の化学成分の空間分布

*杉山 涼1竹内 望1堀 燿一朗1LI Zhongqin2 (1.千葉大学大学院理学研究科、2.中国科学院)

キーワード:山岳氷河、化学成分、空間分布

氷河の雪氷中には,大気エアロゾル等に由来する様々な化学成分が含まれている.雪氷中の化学成分は,氷河上に生息する微生物群集への影響や,融解水の供給による氷河下流域環境への影響を考える上で重要である.氷河表面の化学成分は,下流から上流にかけて高度によって濃度が変化し,またその変化は化学成分によって大きく異なることが明らかになっている.しかしながら,その高度変化は限られた地点を基にしたもので,氷河表面の空間的な化学成分の分布について調査された例はほとんどない.そこで本研究では,中国,天山山脈ウルムチNo.1氷河の表面氷の化学成分について,裸氷域全域の多数の地点で試料を採取,分析を行い,GISを用いて各化学成分の空間分布を明らかにし,その空間分布を決める要因について考察した.
2016年8月の融解期の氷河の末端から雪線付近まで,流動方向と横断方向にできるだけ等間隔に選んだ地点から採取した氷河表面の氷について,水の安定同位体比および化学成分濃度の分析を行い,GISを用いて空間分布図を作成した.その結果,水の安定同位体比は左岸側で平均より高く,中央から左岸側で低い分布があることが明らかになった.右岸側と左岸側で安定同位体比が異なったのは,氷が形成された年代が異なるためと考えられる.氷河周辺の地形と氷河の流動方向から判断すると,右岸側の氷は右岸の尾根の降雪に由来する比較的新しい氷であるのに対し,左岸側の氷は南部稜線の降雪に由来する比較的古い氷と考えられる.化学成分の空間分布も標高または流線方向とは単純な関係はみられず,氷河の右岸側で濃度が高くなる傾向を示した.この分布も,氷の年代による化学成分の供給量の違いを反映しているものと考えられる.一方,Ca2+/Mg2+の空間分布を求めたところ,標高と有意な負の相関があった.標高が低いほど融解期間が長いことを考慮すると,氷河表面でのダストから溶出した成分が下流部ほど表面の氷に混入しているものと考えられる.以上の結果から,ウルムチNo.1氷河の表面氷の化学成分は,単に標高によって決まるのではなく,氷の年代と当時の成分供給量,さらにダストからの溶出成分の混入の影響を受けた空間分布を持つことが示唆された.