JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

11:30 〜 11:45

[HTT23-10] 硫黄同位体比と酸素同位体比を用いた中国地方の降水中の硫酸イオンの起源の推定

★招待講演

藤池 達也1毛 恵星1、*千葉 仁1 (1.岡山大学大学院自然科学研究科)

キーワード:降水、中国地方、硫酸イオン、硫黄同位体比、酸素同位体比

中国大陸からの越境汚染の季節・経年変動を見るために,鳥取県と岡山県を縦断する6地点で月毎の降水の採取を行っている。これまで,降水の化学組成と水素・酸素同位体比,およびストロンチウム同位体比,硫酸イオンの硫黄同位体比を測定して,越境汚染を調査してきた。硫酸イオンの起源と季節によるその寄与の変動は,硫黄同位体比を用いて評価してきたが,硫酸イオンの起源にさらなる束縛を加えることを意図して,硫酸イオンの酸素同位体比の測定を行った。本講演では,硫酸イオンの酸素同位体比測定の結果を,他成分の測定結果と比べて議論する。
硫酸イオンの酸素同位体比は,TC/EA-IRMSで測定した。降水から沈殿させた硫酸バリウムは,硝酸が共沈しているため酸素同位体比が正確に測定できないので,キレート剤(DPTA)で溶解・再沈殿することにより精製した。さらに残存するDPTAを除くために,450℃で三時間加熱し測定に用いた。
測定された結果は,海塩起源の硫酸の同位体比と化石燃料(中国大陸で石炭燃焼により発生するもの,日本国内で石油燃焼によって発生するもの)起源の硫酸などの同位体比が混合した結果である。塩化物イオンの濃度と海水硫酸の同位体比を用いて,非海塩性硫酸の酸素および硫黄同位体比を求めた。非海塩性硫酸の酸素同位体比に対して硫黄同位体比をプロットすると, 測定値は季節によって3つのグループに分かれる。冬期の中国の石炭燃焼に影響を受けているδ34Sの高い硫酸 のグループA(δ18O=約7‰,δ34S=約7‰),夏期の主に国内の石油燃焼の影響を受けているδ34S の低い硫酸のグループB(δ18O=約7‰,δ34S=2‰),3月の測定結果に見られるこれら2つのグループの中間的なδ34Sの値を持ち明らかに高いδ18Oを持つ硫酸のグループC(δ18O=約15‰,δ34S=約4‰)である。同じサンプルに対して測定しているSr同位体比を見るとグループCでは,他のグループに比べて非海塩性のSr同位体比が最も高くなっている。このことは,降水の非海塩性Sr同位体比に黄砂からの溶解成分が寄与していることを示唆しており,グループCの硫酸イオンにも黄砂からの溶解成分が寄与している可能性がある。今後,黄砂の溶解性成分の酸素同位体比の測定をして検討する必要がある。なお,残念ながら,硫酸イオンの酸素同位体比は,中国大陸の石炭燃焼起源の硫酸イオンと日本国内の石油燃焼起源の硫酸イオンを区別する指標にはならないことが明らかになった。