JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

12:00 〜 12:15

[HTT23-12] 山形県月山の樹林帯の積雪中で活動するトビムシの生態

*石渡 晃起1竹内 望1太田 民久2陀安 一郎2 (1.千葉大学、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:雪氷生物、土壌生物、炭素安定同位体比、窒素安定同位体比

雪氷環境には,赤雪現象を引き起こす雪氷藻類、クマムシ、ワムシなどの微生物のほか,トビムシやセッケイカワゲラをはじめとする昆虫も生息することが知られている.これらの生物は低温環境に適応した独特の生態をもち,雪氷圏という寒冷な環境で特有の生態系を形成している.トビムシは腹部に叉状器という器官をもち、叉状器で地面をはじき跳び上がることが名前の由来となっている.トビムシは,一般に世界中の森林土壌に生息している土壌昆虫であるが,南極をはじめとする氷河や寒冷地の積雪上でも広く生息していることが知られている.積雪上で活動するトビムシは雪の上で主に何を餌としているのか、雪氷生態系でどのような役割を担っているのか、わかっていないことが多い.雪氷圏における生態系、物質循環の評価をするためにトビムシの生態を明らかにすることは重要である.そこで本研究では、日本の山形県月山の雪上に生息するトビムシの個体密度、各個体の体長測定,CN安定同位体比分析から、積雪上で活動するトビムシの生態を明らかにすることを目的とした.
積雪期(2016/4/11,4/25,5/9)及び無雪期(10/11)の4回に渡り積雪表面,樹皮,倒木,土壌で活動するトビムシの個体数計測,採集を行った.また,トビムシの食物の可能性のある積雪上に落ちていた地衣類,葉,コケなども採集した. 採取したトビムシは顕微鏡観察,体長測定をしたのち,総合地球環境学研究所にて炭素・窒素安定同位体比を測定した.
調査の結果,月山の積雪期の雪上では,ツチトビムシ科のクロユキノミ(Desoria yukinomi)とマルトビムシ科のコシジマルトビムシ(Dicyrtomina Leptothrix)が活動していることがわかった.無雪期には,クロユキノミの幼体が倒木や樹皮上で活動していた.クロユキノミの形態および体長分布は,積雪期の個体は体色が黒紫色で比較的大きい成体がほとんどなのに対し,無雪期の個体は薄紫色で体長の小さな幼体であることが明らかとなった.このことは,積雪期から無雪期にかけて,ツチトビムシの成体は死滅し,世代交代が起きたことを示唆している.炭素・窒素同位体の分析の結果,δ13Cが-26.7 ± 0.4‰,δ15Nがは-3.2 ± 0.2‰となった.比較的ばらつきが小さかったことは,この雪上のトビムシの食物は特定のものであることを示唆している.無雪期に採取した土壌中のトビムシの同位体比と比較した結果,特に窒素同位体比が土壌のトビムシよりも低く,雪上のトビムシが土壌中のトビムシとは異なる食物を食べていることがわかった.地衣類,落ち葉,苔の安定同位体比と比較した結果,樹皮に繁殖する地衣類2種(アンチゴケ属,カラタチゴケ属)のみが雪上のトビムシの食物である可能性が高いことがわかった.