JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

15:00 〜 15:15

[HTT23-18] 骨の分析による、同位体の履歴情報の復元

*松林 順1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:安定同位体、骨、履歴

炭素や窒素などの軽元素の安定同位体比を用いた分析は、過去から現在までの生物の食性や移動、食物網構造などの生態を調べるうえで重要なツールとなっている。生物の体の安定同位体に記録されている食性や周辺環境の情報は、使う組織によって反映される時間スケールが異なることが分かっている。動物では、血液の血漿成分であれば多くの生物で1~2週間の間の情報が記録されており、筋肉組織であれば1~数ヶ月程度とされている。これまでの同位体分析研究では、単一の組織に着目して同一の時間スケールで複数の個体やグループで同位体比を比較する場合がほとんどであった。しかし、単一の組織から複数の生活ステージの同位体情報(例えば、1歳、5歳、10歳時の同位体比など)を復元することができれば、同位体分析の応用幅を大きく広げることができるだろう。

本発表では、硬骨魚類と哺乳類において、骨の安定同位体分析により複数の時間スケールの履歴情報を得る手法の解説を行う。一般的に、骨のタンパク質成分であるコラーゲンには、数年以上の長期間の同位体情報が保存されている。従って、骨を成長方向に合わせて切り分けてから分析を行うことで、同位体比の時系列情報が得ることができる。この手法の妥当性を示ために、魚類では遡河性魚類であるサクラマス(Oncorhynchus masou)のイオウ安定同位体比、哺乳類では20世紀後半に生きていたヒグマなどの大腿骨の放射性炭素同位体比分析を行い、それぞれ過去の同位体比のシグナルが検出されるかを検証した。

分析の結果、サクラマスでは脊椎骨の中心部では陸域のシグナルである低いイオウ安定同位体比が検出され、辺縁部では海のシグナルである高いイオウ安定同位体比が検出された。従って、硬骨魚類の脊椎骨の分析によって、稚魚期から成魚になるまでの同位体比の履歴情報が得られることが示された。哺乳類では、大腿骨の最も中心に近い部位と、最も外側に近い部位において、より後の時期の放射性炭素同位体比が検出された。しかし、最も中心に近い部位以外では、より古い時代の放射性炭素同位体比となっていた。これは、大腿骨では骨の代謝による同位体比の置換が影響したためだと考えられる。ただし、骨代謝の影響が見られるのは最も中心に近い限られた範囲のみであり、それ以外の部位ではほとんど骨代謝の影響が現れないことも明らかになった。従って、本分析から骨代謝による影響が若干見られるものの、骨の分析からある程度の同位体比の履歴情報を復元できることが示された。