JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT23] [JJ] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、中野 孝教(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

[HTT23-P02] 兵庫県千種川の水質に関する地球化学的研究

*山本 雄大1陀安 一郎2中野 孝教2角皆 潤1中川 書子1横山 正3三橋 弘宗4SHIN Ki-Cheol2藪崎 志穂2太田 民久2大串 健一5 (1.名古屋大学環境学研究科、2.総合地球環境学研究所、3.赤穂特別支援学校、4.兵庫県立大学自然・環境科学研究所、5.神戸大学大学院人間発達環境学研究科)

キーワード:兵庫県、千種川、河川水、溶存イオン濃度、安定同位体、地球化学

千種川は, 兵庫県南西部を流域圏とする二級河川である. 本河川の流域では, 度々河川氾濫による被害が発生しているため, 兵庫県を主体とし, 河川流下能力の向上を目的とした河川整備工事がなされた(~2016年5月). しかし, 工事により河川環境が変化したため, 水質や河川生態系への影響が懸念されており, その影響を科学的に評価するために必要な基礎データが求められている. 本研究では, 河川水における溶存イオン濃度, 微量元素濃度, 水の水素・酸素同位体比, 硝酸の窒素・酸素同位体比, Sr同位体比などを分析した. また, 分析結果を視覚的に捉えられるよう, 地理情報システムを用いて地図上にプロットし, 利活用しやすい基礎データの提供を目指した. さらに, 分析結果と流域の土地利用, 地質, 地形との比較を通じて, 水質成分の形成要因の推定を行った.
千種川では, 2002年より, 毎年8月に千種川圏域清流づくり委員会主催の「千種川一斉水温調査」が開催され, 流域住民の協力により, 源流部から河口部, 主要支流の計94地点で水温と電気伝導度が測定されている. この調査に, 2015年から総合地球環境学研究所, 神戸大学, 兵庫県立大学が参与し, 前述の測定に加えて各地点の採水を行っており, 本研究はその2年目にあたるものである. 2016年8月7日の13:00~16:00に, 流域住民らが採った水を当日中に回収し, 回収所にて穴径0.2 µmのセルロースアセテート製フィルターを用いてろ過した. その後ポリ瓶などに小分けし, 常温保存もしくは冷凍保存した. 常温保存した試料を用いて微量元素濃度, Sr同位体比, 水の水素・酸素同位体比および重炭酸イオン濃度を分析し, 冷凍保存した試料を用いて溶存イオン濃度および硝酸の窒素・酸素同位体比を分析した.
溶存イオン濃度は, 概ね上流から下流に向かうにつれて値は高くなった. 上流~中流部では地質や降水の寄与が大きいが, 本流の下流部や, 人口の多い地域を流れる支流においては, 生活排水や農業排水などの人為的寄与による高い値がみられる. 一方, NO3-およびPO43-は上流~中流部で高く, 下流部やその支流では低い値を示す傾向があった. これらのイオンが高い値を示す地点では, 森林域での窒素飽和や, 一部支流の最上流部における畜産排水の寄与が大きいと考えられる. 下流部で低い値を示す地点は水温が高いため, 水生生物の活動が活発になり, NO3-やPO43-が消費されている可能性がある.
水の水素・酸素同位体比は, 上流で低い値, 中流~下流で高い値を示した. 上流~中流部では高度効果の影響を受けた降水の寄与が大きく, 標高が高くなるにしたがって同位体比が低くなった一方, 中流~下流域および支流では標高に関わらず高い値を示した. 中流~下流域は河川整備工事によって, 河川の形状が浅く, 広くなった地域であり, 日射の影響を受けやすくなったために, 河川水の水面からの蒸発が活発になり, 同位体比が高くなったものと考えられる. また, この地域では稲作が盛んであり, 同位体比の高い田面水が河川に流入したことで, 河川水の水素・酸素同位体比も高くなった可能性も考えられる.
また, その他の分析項目についても, 周辺地質や人為排水などの影響が明瞭に現れたものがあり, 本発表ではその結果に関しても論じる.