JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT25] [JJ] 地理情報システムと地図・空間表現

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、吉川 眞(大阪工業大学工学部)、鈴木 厚志(立正大学地球環境科学部)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、座長:王尾 和寿(筑波大学)

11:15 〜 11:30

[HTT25-09] 空間データを用いた緑景観の分析

*竹村 唯1吉川 眞2田中 一成2 (1.大阪工業大学大学院、2.大阪工業大学)

キーワード:緑景観、観光地、ソーシャルメディア

長い歴史と豊かな自然を有したわが国には、歴史的価値のある建造物と自然環境が一体となった美しい景観が現存している。これらの景観は、地域独自の風土や歴史に依存し、日本文化に深い影響を与えてきた。しかし、高度経済成長期より急速な都市化が進み、歴史や文化を感じさせる古い街並みや古くから存在した豊かな緑が失われつつある。このような背景の中、2005年6月には、美しい景観と豊かな緑を総合的に実現するために「景観緑三法」が施行されるなど、景観や都市における緑の重要性への国民の意識は高まっている。また、良好な景観の形成により地域の魅力が増進、創出されることになる。2007年1月に「住んでよし、訪れてよし」の国づくりを目指した「観光立国推進基本法」が施行されるなど、観光立国の実現に向けてさまざまな施策が行われている。したがって、美しい景観資源であるわが国の緑は、重要な観光資源にもなっている。
一方、情報技術の急速な発展により、スマートデバイスの普及が進み、ソーシャルメディアが広く一般化している。これにともない、ビッグデータと呼ばれる膨大な空間データ群が創出されるようになった。このようなビッグデータを活用することは、実際に観光客に眺められる景観を分析・把握する上で有効であると考えられる。多くの緑と歴史的文化遺産が存在し、多様な緑景観が創出される観光地において、さまざまな緑景観が眺められていると考えられる。本研究では、ソーシャルメディアを用いて、観光地において人々が眺める緑景観と観光行動を把握することを目的としている。

本研究では、ソーシャルメディアのひとつである写真コミュニティサイトを活用している。写真コミュニティサイトは、FlickrとPanoramioの2つを利用している。投稿写真からは、位置情報をはじめとする多数の情報を抽出することが可能であり、それぞれのサイトの写真撮影位置の集積から狭域な対象地を選定している。くわえて、オブリーク航空カメラを活用して緑のデータベースを構築している。構築したデータベースには、樹冠と樹高以外の情報がないため、現地調査により樹種を確認している。これらのデータから、観光客の観光行動を把握し、実際に観光客に眺められている緑景観の分析・把握を試みている。対象としている寺社の中でも、東大寺と興福寺を対象に、対象に着目した分析と観光行動に着目した分析の2つの観点から展開している。
まず、対象に着目した分析について、東大寺では大仏殿でとくに写真撮影が行われていることから、大仏殿で撮影された写真を撮影位置および写真画像に写る被写体により分類した。その結果、大仏殿では西側回廊から大仏殿と視点付近に存在する緑を撮影した写真が年間を通して多く、サクラの開花、新緑、紅葉、落葉による景観変化が伺える構図で眺められていることを把握した。興福寺では五重塔と緑が撮影された写真が多いことを把握した。写真の構図から主要な被写体を推定し、写真の被写界深度を抽出することで、写真画像全体にピントが合っていることを確認し、五重塔と緑がともに撮影されている典型的な視点場を把握することができた。

つぎに、観光行動に着目した分析について、実際に利用されている観光ルート上で眺められる緑景観を分析する上で、観光客の動きを詳細に知る必要がある。そこで、特定の個人の写真撮影位置と時間情報をもとに、道路ネットワークを利用し、ネットワーク分析により各写真の撮影位置同士の最短経路から個人の観光ルートを分析した。とくに多くの観光客に利用されているルートを対象に、観光ルート上を移動する際の視点移動にともなう緑の見え方の変化を分析している。緑の見え方の変化を把握するため、視線の移動を考慮した現実的な視野範囲を設定し、緑視率を算出した。緑視率の算出には、オブリーク航空カメラにより作成された3D都市モデルを活用している。くわえて、ルート上で眺められる緑の中でも、具体的な樹木に着目して興福寺を例に分析を行っている。可視・不可視分析の結果と実際に写真に撮影されている緑を比較することで、可視頻度と撮影頻度の違いを把握している。

結果として、本研究では、ビッグデータを活用することで、観光地における観光客の観光行動および観光客が実際に眺めている典型的な緑景観を把握することができた。