JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] [EJ] データ駆動地球惑星科学

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 102 (国際会議場 1F)

コンビーナ:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、Kondrashov Dmitri(University of California, Los Angeles)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、Sergey Kravtsov(University of Wisconsin Milwaukee)、座長:吉田 健太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:Kondrashov Dmitri(University of California, Los Angeles)

16:00 〜 16:15

[MGI29-15] 元素拡散を考慮した斑晶鉱物の累帯構造の解析: ベイズ統計に基づくアプローチ

*森里 文哉1小澤 一仁1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:火山岩、結晶成長、元素拡散

火山岩中の斑晶に見られる累帯構造からは,メルトとの平衡が保証されれば分配係数を用いて自由度が大きく均質化のタイムスケールの短いメルト組成や結晶化条件の時間変化に関する時系列データが得られ、地殻内部での分化プロセスに関係する物理プロセスの情報や,初生マグマに関する制約が可能になると期待される.しかし、結晶中の元素の拡散のために分配係数を用いた解析では不十分な場合が多い. 一方で、元素拡散の影響を受けた組成累帯構造から,拡散の影響を見積もることができれば,時間情報を得ることができる.しかし、多段階の結晶化過程を反映し累帯構造が複雑になると,解析時に考慮すべきパラメータ数が増加し,パラメータ間の依存関係も複雑になる.本研究では,多段階の結晶化過程を経験した斑晶鉱物の累帯構造から元素拡散の影響を定量的に評価し,その影響を取り除いた累帯構造を推定した上でメルト組成情報を復元し,マグマが経験した物理プロセスを解明する手法を開発する.

今回我々は,結晶成長とそれに引き続く元素拡散による組成累帯構造形成に関するフォワードモデルを構築し,モデルを特徴づけるパラメータをParallel tempering Markov Chain Monte Carlo (PT-MCMC) 法で推定した.ここでは人工的に生成したデータにノイズを加算したものをテストデータとし,正しいパラメータが再現されるかどうかを試した.本モデルでは,累帯構造が何度かの結晶成長によって形成され,それぞれの結晶成長の後に元素拡散が進行するステージがあるものと仮定した.結晶成長ステージの区分については,orthopyroxeneであればCr2O3のような拡散速度の小さいプロファイルに基づき制約した.

メルト組成がolivine,orthopyroxene,spinelの結晶分別によって変化する結晶化モデルを採用した.モデルでは、計算の起点となるメルト組成は天然の溶岩のうち最も初生的なものの全岩組成とし,繰り返し微小量の固相が分別されるか,溶融して液相に加えられるとした.固相はそれぞれ球対称で,計算ステップごとにメルトと局所平衡である組成をもつ球殻が成長するものとした.分配係数は固相ごとに常に一定であるとして計算を行った.olivineとorthopyroxeneは微量元素および主要成分のMgO,FeO,SiO2のみに影響を与えるものとした.Spinelは微量元素組成のみに影響を与えるものとした.

Ozawa (2004)の方法に基づき, 無次元化した拡散方程式を計算した.拡散係数は温度依存性のみを考慮した.計算スキームとして,空間方向は二次精度中心差分,時間方向は後退差分を採用した. 上記のフォワードモデルと累帯構造の分析値を用い,擬似的な温度を表現するパラメータで拡張した8列のマルコフ鎖を生成し,parallel tempering Markov Chain Monte Carlo method (Hukushima & Nemoto,1996)によりパラメータ推定を行った.規定回数のサンプリングの後,得られたサンプルのヒストグラム形状を確認しながら,パラメータの最適値を平均値またはモード値から決定した.

各ゾーニングセクションにおいて以下の5種類のパラメータをサンプリングした.
結晶成長ステージにおける初期Mg#,最終Mg#,orthopyroxeneモード比,spinelモード比,および元素拡散ステージにおける最大圧縮時間の対数.