JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI30] [JJ] 情報地球惑星科学と大量データ処理

2017年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:村田 健史(情報通信研究機構)、大竹 和生(気象庁気象大学校)、野々垣 進(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 情報地質研究グループ)、堀之内 武(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:村田 健史(情報通信研究機構)、座長:本田 理恵(高知大学理学部応用理学科)

11:15 〜 11:30

[MGI30-09] IIIFを用いた時空間データへの多重解像度アクセスとひまわり8号データへの適用

*北本 朝展1 (1.国立情報学研究所)

キーワード:多重解像度アクセス、時空間データ、IIIF、ひまわり8号、標準化、画像データ

地球環境データは空間的かつ時間的に巨大なデータとなるため、任意の部分を任意の解像度でデータにアクセスできるソフトウェアには大きなニーズがある。そこでそうした機能を実現するための様々なソフトウェアシステムがこれまで考案されてきた。まず、Google Mapsなどの地図サービスは、タイル方式というウェブ技術を活用したアクセス方法を提案した。データアクセスの単位をタイルに規格化することで、オフライン処理による大規模タイル生成と、固定URIによるキャッシュの活用が可能となり、さらに非同期アクセス法(AJAX)を組み合わせることでデータ転送を効率化することに成功した。この一連のアイデアは今日ではOpen Source Geospatial FoundationがTile Map Serviceとして標準化しており、ウェブ時代の空間データサービスとして広く使われている。

一方、時間データは空間データほど標準化が進んでいない。タイムラインを表示するためのオープンソースソフトウェアはいくつも存在するが、決定版と言える方式はまだ存在しない。我々も2011年にSyncReelというソフトウェア[1]を開発し、複数のタイムラインを同期した時系列画像ビューアーとして、100年分の天気図データや40年分のアメダスデータに様々な時間解像度でアクセスするためのツールとして活用してきた。ただし時系列データの多様性は大きいため、様々なイベントを同一タイムライン上に統一的に記述するための規格はまだ開発途上の段階にある。

そこで本発表は、もともとミュージアムなどの文化遺産分野で考案された画像アクセスの国際的なプロトコルであるIIIF (International Image Interoperability Format)[2]を活用し、地球環境データに対する空間的かつ時間的な多重解像度アクセスを可能にする試みについて述べる。IIIFは2014年頃から活動が活発化してきた国際的なコミュニティである。IIIFではデータ提供側が作成するJSON-LD形式の規格を定めており、クライアント側は規格を解釈するソフトウェアを構築することで、異なるデータ提供者の間の相互運用性の確保やビューアー構築コストの削減を達成できることになる。最も基本的なサービスはIIIF Image APIと呼ばれており、画像の任意の部分にアクセスする標準的なURIを定めている。このAPIは画像の種類に依存しないため、地球環境データに対する空間的な多重解像度アクセスにおける基盤技術としても使うことができる。

我々はこのIIIF規格をひまわり8号の可視画像閲覧システムに導入した。このシステムはサーバとクライアントの2つのサブシステムから構成される。サーバ側のソフトウェアにはIIIF Image APIに準拠するIIPImage [3] を利用した。IIPImageはもともと天文学における高解像度画像の閲覧を目的として構築された高性能な画像配信ソフトウェアであるが、バージョン1.0からIIIFへの対応を開始した。クライアント側のソフトウェアにはLeaflet IIIF [4]を利用した。Leafletは先述のタイル地図を表示するためのJavaScriptライブラリであるが、IIIFも同様のタイルアクセスを用いるため相性がよく、Leafletの周辺ライブラリを活用できる点でも利点が大きい。このようなオープンソースライブラリを活用することで、11000×11000画素の巨大なひまわり8号可視画像に対しても、ズームイン・アウトを活用して多重解像度でアクセスできるビューアーを簡単に構築することができた。

我々はこのビューアーをさらに発展させ、ひまわり8号クリッピング [5]を公開した。これは、Leaflet関連のライブラリであるLeaflet Drawを活用し、画像上に矩形領域を描いてその内部だけを切り取り保存するサービスである。クリップされた画像には新たなURIとメタデータを付与できるため、気象学的に興味深いシーンのみを集めたひまわり8号画像カタログなども、ウェブ上の共同作業で構築できるようになる。

このような空間軸の多重解像度アクセスに対して、時間軸の多重解像度アクセスへの拡張は今後の課題である。文化遺産分野には時系列データが少ないため、時系列への対応はIIIFの中ではこれまで検討されてこなかった。しかし地球環境などの科学分野では時系列データが一般的であり、時間方向の多重解像度アクセスに対する標準化のニーズは大きい。この方向でのIIIFの拡張は現在検討中であるが、発表時には最近の進展を報告できる見通しである。

[1] SyncReel、http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/syncreel/
[2] IIIF | International Image Interoperability Framework、http://iiif.io/
[3] IIPImage、http://iipimage.sourceforge.net/
[4] Leaflet IIIF、https://github.com/mejackreed/Leaflet-IIIF
[5] ひまわり8号クリッピング、http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/himawari-3g/clipping/