JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI31] [JJ] ソーシャルメディアと地球惑星科学

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 202 (国際会議場 2F)

コンビーナ:天野 一男(茨城大学理学部地球生命環境科学科)、小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、伊藤 昌毅(東京大学生産技術研究所)、山本 佳世子(国立大学法人 電気通信大学)、座長:天野 一男(茨城大学理学部地球生命環境科学科)、座長:伊藤 昌毅(東京大学生産技術研究所)

15:00 〜 15:15

[MGI31-06] ソーシャルメディアを活用したオープンイノベーションの可能性 -CS立体図を事例として

*岩崎 亘典1 (1.国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センター)

キーワード:ソーシャルメディア、CS立体図、オープンイノベーション

オープンイノベーション(OI)とは、組織内外のオープンな資源を活用してイノベーションを創出する、新たな研究・技術開発の手法である。近年では、欧州を中心として市民や技術の利用者の主導による、オープンイノベーション2.0が注目されている。このような多様な主体の参加により実現されるOIでは、ソーシャルメディアが大きな役割を果たすと考えられる。そこで本発表では、立体図法の一つであるCS立体図の活用について、OIとしての特徴と、ソーシャルメディアの果たした役割ついて報告する。

CS立体図とは、長野県林業総合センターにより考案された立体図法である(図1)。林業関係者の間では広く認知されているが、他分野での利用や認知が十分ではなかった。また、ArcGISを用いたCS立体図作成のためのソフトウェアはあったが、それ以外のソフトウェアを使用した作成方法の整備は、十分ではなかった。
報告者がソーシャルメディア上でCS立体図を確認したのは、Facebookへの投稿で、11月20日にWebサイト・森林土木memoでのCS立体図の作成方法を公開したことの告知であった。さらに、Qiita上で実施されていた「FOSS4G Advent Calendar 2016」の12月9日のエントリーで、「地理院標高タイルと Leaflet でつくるCS立体図」が公開された。これにより、GISソフトウェアを使用することなくCS立体図の閲覧が可能となった。このエントリーでは「もともと CS 立体図は林業なんかの業務向けを想定しているとは思うのですが、山で迷子にならないために使いたい、という需要もあるみたいです。思わぬ収穫でした。」との記述があり、利用用途の拡大が確認できる。さらに、2017年1月21日に開催された「みんなでつくろう「私たちの信州」ワークショップ」でもこのCS立体図が利用され、一般向けの利用の拡大が確認できる。また前述の森林土木memoでは、1月26日に北海道全域のCS立体図を作成、公開した。これは、Web上の地図データ公開に使われるタイル地図形式で作成されており、他の地図サービスでも利用されている。

さらに「FOSS4G Advent Calendar 2016」では、「pix2pixおかわり!CS立体図から地すべり地形分布図を作成してみた」というエントリーが2016年12月16日公開された。ここでは、Deep Learningを用いてCS立体図を作成することや、地すべり地形分布図を作成する方法が検討された。このエントリー中には、「長野県林業総合センターで作られたオープンな立体図法のようです。この辺の立体図関係は特許が合ったりするのでオープンな規格は大変助かります」との記述があった。
そうしたソーシャルメディアでの繋がりを元に、CS立体図の活用に関して二回の勉強会が催された。1回目は2017年1月19日に開催され、様々な分野の技術者や研究者が活用について意見交換を行った。この会議で、オープンソースGISでのCS立体図開発について要望が高かったことから、1月30日にOSGeo.JPのメンバーを主体として、CS立体図作成方法の勉強会が開催された。二回目の成果は、Hackpadというソーシャルメディアを利用して公開された。さらに、QGISによりCS立体図を作成するためのプラグインが開発され、プログラム公開のためのソーシャルメディアであるGitHubにおいて1月31日に公開されてた。

このように、林業分野での利用を目的として開発されたCS立体図が、他分野のユーザーや技術者と結びつくことにより、より使いやすく、より活用の場面が広がった。これは、市民やユーザーが主体となったOIの典型例であるといえる。このように短時間でOIが実現できたのは、CS立体図の技術が優れていたことに加え、3つのオープンな要因があったと考える。すなわち、オープンな手法、オープンなデータ、オープンなソフトウェアである。加えて、公知の技術として利用されている地図タイル形式も重要であった。これらの要素を結ぶメディアとして活用されたのが、ソーシャルメディアであった。この事例では、Facebookの様に情報を共有するためのソーシャルメディアだけでなく、QiitaやHackpad、Githubといった主に技術者を対象としたソーシャルメディアにより拡散され、新しい活用の場面ができた。

地球惑星科学に関係する技術は、基礎的研究の部分が多く、いわゆるイノベーションとの距離を感じる遠いと感じている方も多いだろう。しかしCS立体図の活用に見るように、利用者の要望は様々であり、開発者の思いもよらない活用法が存在する。今後多くのデータや手法、ソフトウェアがソーシャルメディアを活用して公開され、OIが進むことを期待したい。