10:00 〜 10:15
[MGI32-05] ケンタウルス族Charikloの環の大規模多体シミュレーション
キーワード:N体シミュレーション、リング、衛星
掩蔽観測により,ケンタウルス族Charikloの周囲に2重環が発見された(Braga-Ribas et al. 2014).Charikloの中心から391 kmと405 kmの位置に間隙に隔てられた2本の環があり,特に内側の環の光学的厚さは土星のA環や天王星のδ環に匹敵するほど高い.幅はどちらも6 kmから7 km程度である.また,同様にケンタウルス族Chironにおいても,環が存在する可能性が指摘されている(Ruprecht et al. 2015).小天体周りの環は従来考えられていたよりも,稀な存在ではない可能性がある.
Charikloの環の起源としてはいくつかのモデルが提案されている.衝突破壊された破片による環形成,衛星の破壊,潮汐破壊などである(Pan and Wu 2016, Hyodo et al. 2016).しかし,これまでのところ,これらのモデルについての十分な制限は得られていない.そのため,環の構造,安定性などを詳細に調べ起源や形成モデルとの整合性を調べる必要がある.そこで,N体シミュレーションを用いて,環の構造と安定性について調べた.
土星の環の研究では,環全体を計算対象とすると計算規模が極めて大きくなるため,環の一部を抜き出して周期境界条件を課すシミュレーション手法が用いられてきた.本研究では環全体を計算対象とする大域シミュレーションを環の研究としては初めて行った.
環は一様なサイズの粒子で構成されると仮定した.粒子間の相互作用としては粒子間の相互重力と非弾性衝突を考慮した.粒子間の非弾性衝突は減衰振動として扱うモデルを採用した(e.g., Salo 1995).また,重力はツリー法により計算した(Barnes and Hut 1986).計算領域の中心には半径125 kmで密度が1 g/ccのCharikloをおいて,その重力を考慮した.シミュレーションの実装にはN体ライブラリFDPSを用いた(Iwasawa et al. 2016)
シミュレーションパラメータは,粒子サイズと密度である.環の離心率を維持するメカニズムの理論的解析より粒子サイズはおよそ数メートル程度であると予想されている(Pan and Wu 2016).そのため,標準モデルでは粒子サイズを5 mとした.また密度は土星の環などを参考に氷粒子として0.5 g/ccとした.
標準モデルにおいて10回転周期ほど計算したところ,環全体には特徴的な構造は現れなかった.一方で,環の内部には複雑な微細構造が存在する.この構造は,土星の環などでは自己重力ウェイク構造として知られている(Salo 1992).粒子間の非弾性衝突によってランダム速度が低下し,自己重力不安定が発生し,環は分裂し自己重力でアグリゲートを形成しようとする.しかし,Charikloの近傍では,強い潮汐力が働くため,アグリゲート形成を妨げようとする.この2つの競合過程によりこのような複雑な構造が形成されるのである.
次に粒子サイズや密度を変化させてシミュレーションを行った.粒子サイズは2.5 mから10 m,粒子密度は0.05 g/ccから1.0 g/ccまでの値を用いてシミュレーションを行った.粒子数は,2000万体から3億4000万体である.その結果,粒子密度が環の構造を決定する重要なパラメータであることがわかった.まず,粒子密度が0.1 g/cc以下の場合は,自己重力ウェイク構造ができず一様な環となる.これはエネルギー散逸が弱くランダム速度の低下が十分ではないため,重力不安定が発生しないためである.次に,粒子密度が0.1 g/ccから0.5 g/ccの場合は,標準モデルと同様に自己重力ウェイク構造が発生する.粒子密度が0.5 g/cc以上の場合は,環は分裂して速やかに衛星が形成される.したがって,環が分裂しないためには粒子密度が0.5 g以下である必要があることがわかった.つまり,環の粒子密度はCharikloの粒子密度の半分以下である.
環が分裂しない場合でも,自己重力ウェイク構造によるトルクのため環の拡散が促進される.自己重力ウェイク構造を考慮して,環の拡散時間を見積もったところ1年から100年程度と見積もられた.これは従来の見積もりである10万年と比べて極めて早い.拡散時間は粒子サイズに強く依存するため,現在考えられているメートル程度の粒子よりも十分に小さければ,拡散時間は長くなる.また,まだ発見されていない衛星が存在している場合でも拡散を抑えられる可能性がある.
Charikloの環の起源としてはいくつかのモデルが提案されている.衝突破壊された破片による環形成,衛星の破壊,潮汐破壊などである(Pan and Wu 2016, Hyodo et al. 2016).しかし,これまでのところ,これらのモデルについての十分な制限は得られていない.そのため,環の構造,安定性などを詳細に調べ起源や形成モデルとの整合性を調べる必要がある.そこで,N体シミュレーションを用いて,環の構造と安定性について調べた.
土星の環の研究では,環全体を計算対象とすると計算規模が極めて大きくなるため,環の一部を抜き出して周期境界条件を課すシミュレーション手法が用いられてきた.本研究では環全体を計算対象とする大域シミュレーションを環の研究としては初めて行った.
環は一様なサイズの粒子で構成されると仮定した.粒子間の相互作用としては粒子間の相互重力と非弾性衝突を考慮した.粒子間の非弾性衝突は減衰振動として扱うモデルを採用した(e.g., Salo 1995).また,重力はツリー法により計算した(Barnes and Hut 1986).計算領域の中心には半径125 kmで密度が1 g/ccのCharikloをおいて,その重力を考慮した.シミュレーションの実装にはN体ライブラリFDPSを用いた(Iwasawa et al. 2016)
シミュレーションパラメータは,粒子サイズと密度である.環の離心率を維持するメカニズムの理論的解析より粒子サイズはおよそ数メートル程度であると予想されている(Pan and Wu 2016).そのため,標準モデルでは粒子サイズを5 mとした.また密度は土星の環などを参考に氷粒子として0.5 g/ccとした.
標準モデルにおいて10回転周期ほど計算したところ,環全体には特徴的な構造は現れなかった.一方で,環の内部には複雑な微細構造が存在する.この構造は,土星の環などでは自己重力ウェイク構造として知られている(Salo 1992).粒子間の非弾性衝突によってランダム速度が低下し,自己重力不安定が発生し,環は分裂し自己重力でアグリゲートを形成しようとする.しかし,Charikloの近傍では,強い潮汐力が働くため,アグリゲート形成を妨げようとする.この2つの競合過程によりこのような複雑な構造が形成されるのである.
次に粒子サイズや密度を変化させてシミュレーションを行った.粒子サイズは2.5 mから10 m,粒子密度は0.05 g/ccから1.0 g/ccまでの値を用いてシミュレーションを行った.粒子数は,2000万体から3億4000万体である.その結果,粒子密度が環の構造を決定する重要なパラメータであることがわかった.まず,粒子密度が0.1 g/cc以下の場合は,自己重力ウェイク構造ができず一様な環となる.これはエネルギー散逸が弱くランダム速度の低下が十分ではないため,重力不安定が発生しないためである.次に,粒子密度が0.1 g/ccから0.5 g/ccの場合は,標準モデルと同様に自己重力ウェイク構造が発生する.粒子密度が0.5 g/cc以上の場合は,環は分裂して速やかに衛星が形成される.したがって,環が分裂しないためには粒子密度が0.5 g以下である必要があることがわかった.つまり,環の粒子密度はCharikloの粒子密度の半分以下である.
環が分裂しない場合でも,自己重力ウェイク構造によるトルクのため環の拡散が促進される.自己重力ウェイク構造を考慮して,環の拡散時間を見積もったところ1年から100年程度と見積もられた.これは従来の見積もりである10万年と比べて極めて早い.拡散時間は粒子サイズに強く依存するため,現在考えられているメートル程度の粒子よりも十分に小さければ,拡散時間は長くなる.また,まだ発見されていない衛星が存在している場合でも拡散を抑えられる可能性がある.