11:25 〜 11:40
[MGI32-10] 惑星大気シミュレーションの高解像度化に向けて:理想化実験におけるQBO的周期振動のモデル依存性
キーワード:大気大循環モデル、Held and Suarez (1994) 実験、成層圏準二年周期振動
地球大気の運動は数メートル規模から惑星規模に至るまで幅広く、様々な規模の現象が相互作用している。このことが、より高解像度の大気シミュレーションが求められる理由の1つである。こうした状況は、火星や金星などの他の惑星でも同様なはずである。ゆえに、惑星大気のより深い理解のために、より高い解像度が求められる。しかし我々は、とりわけ小規模な現象の観測がほとんどない惑星大気に関しては、高解像度化の道を慎重に歩むべきである。
大気シミュレーションを高解像度化していくにあたって、支配方程式系と計算手法の両者にそれぞれギャップが存在している。
大規模な運動において大気は静力学平衡を保っており、それは大気モデルの支配方程式系の中で仮定されてきた。一方、小規模 (数十キロメートル以下) の運動では、静力学平衡の仮定は妥当でなく、鉛直運動量の予報方程式を解く必要がある。それゆえ、解像度を高くしていく場合、非静力学の支配方程式系に変更する必要がある。
大規模並列計算機の高い計算性能を活用するには、計算手法もまた、変更する必要がある。全球大気モデルの数値計算には、スペクトル法が広く使われてきた。なぜならば、スペクトル法は、計算精度の高さと球面上での格子間隔の不均一を避けられるという利点を持っているからである。しかし、この手法はスペクトル変換を利用するため、並列計算には適していない。そこで、大規模並列計算機を活用するために、正二十面体準一様格子による計算手法が開発された (Tomita et al. 2001, 2002)。本来望ましくないことだが、計算手法の違いが数値解に無視できない規模で影響するかもしれない。
上述のギャップを乗り越える、つまり方程式系や計算手法に対する数値解の依存性を理解し、それらに依らないロバストな結果・知見を得るためには、比較研究が重要である。本研究では、DCPAM と SCALE-GM という2つの数値モデルを用いる。DCPAM は静力学平衡を仮定しており、スペクトル法で計算を行っている。一方、SCALE-GM は非静力学モデルであり、正二十面体準一様格子上で有限体積法で計算をしている。また、SCALE-GM は静力学平衡を仮定した計算も実施できる。
我々は、地球大気大循環の理想化実験 (Held and Suarez 1994) をモデル大気上端を約 50 km まで延ばした実験を、両モデルで実施した。その結果、約 15 km 以下の下層大気の循環は両モデルで似ていたが、上層大気では東西風速の振る舞いが顕著に違った。SCALE-GM では QBO (成層圏準二年周期振動; 赤道上空の東西平均東西風の向きが約2年周期で振動する現象) に似た東西風振動が現れたが、DCPAM ではそのような振動は現れなかった。このような、QBO 的振動とそのモデル依存性は、Yao and Jablonowski (2013, 2015) で報告されているが、その詳細や原因は未解明である。
本研究では、この QBO 的振動のモデル依存性を探究するため、様々な水平渦拡散やモデル解像度で数値実験を実施した。その結果、DCPAMでも水平渦拡散を弱くすると、QBO 的振動が現れた。また、両モデルとも水平渦拡散が弱いほど、振動周期が短くなった。さらに水平渦拡散の強さが同じでも、水平解像度が高いほど、振動周期が短かった。擾乱 (東西平均からのずれ) による東西運動量の鉛直輸送を解析したところ、鉛直輸送が大きいほど振動周期が短いという結果が得られた。擾乱による運動量の鉛直輸送の担い手は主に大気重力波である。つまり、モデルの水平渦拡散や解像度が、重力波の励起・伝播・砕波に影響し、それが QBO 的振動の有無または振動周期に影響している可能性が高い。
大気シミュレーションを高解像度化していくにあたって、支配方程式系と計算手法の両者にそれぞれギャップが存在している。
大規模な運動において大気は静力学平衡を保っており、それは大気モデルの支配方程式系の中で仮定されてきた。一方、小規模 (数十キロメートル以下) の運動では、静力学平衡の仮定は妥当でなく、鉛直運動量の予報方程式を解く必要がある。それゆえ、解像度を高くしていく場合、非静力学の支配方程式系に変更する必要がある。
大規模並列計算機の高い計算性能を活用するには、計算手法もまた、変更する必要がある。全球大気モデルの数値計算には、スペクトル法が広く使われてきた。なぜならば、スペクトル法は、計算精度の高さと球面上での格子間隔の不均一を避けられるという利点を持っているからである。しかし、この手法はスペクトル変換を利用するため、並列計算には適していない。そこで、大規模並列計算機を活用するために、正二十面体準一様格子による計算手法が開発された (Tomita et al. 2001, 2002)。本来望ましくないことだが、計算手法の違いが数値解に無視できない規模で影響するかもしれない。
上述のギャップを乗り越える、つまり方程式系や計算手法に対する数値解の依存性を理解し、それらに依らないロバストな結果・知見を得るためには、比較研究が重要である。本研究では、DCPAM と SCALE-GM という2つの数値モデルを用いる。DCPAM は静力学平衡を仮定しており、スペクトル法で計算を行っている。一方、SCALE-GM は非静力学モデルであり、正二十面体準一様格子上で有限体積法で計算をしている。また、SCALE-GM は静力学平衡を仮定した計算も実施できる。
我々は、地球大気大循環の理想化実験 (Held and Suarez 1994) をモデル大気上端を約 50 km まで延ばした実験を、両モデルで実施した。その結果、約 15 km 以下の下層大気の循環は両モデルで似ていたが、上層大気では東西風速の振る舞いが顕著に違った。SCALE-GM では QBO (成層圏準二年周期振動; 赤道上空の東西平均東西風の向きが約2年周期で振動する現象) に似た東西風振動が現れたが、DCPAM ではそのような振動は現れなかった。このような、QBO 的振動とそのモデル依存性は、Yao and Jablonowski (2013, 2015) で報告されているが、その詳細や原因は未解明である。
本研究では、この QBO 的振動のモデル依存性を探究するため、様々な水平渦拡散やモデル解像度で数値実験を実施した。その結果、DCPAMでも水平渦拡散を弱くすると、QBO 的振動が現れた。また、両モデルとも水平渦拡散が弱いほど、振動周期が短くなった。さらに水平渦拡散の強さが同じでも、水平解像度が高いほど、振動周期が短かった。擾乱 (東西平均からのずれ) による東西運動量の鉛直輸送を解析したところ、鉛直輸送が大きいほど振動周期が短いという結果が得られた。擾乱による運動量の鉛直輸送の担い手は主に大気重力波である。つまり、モデルの水平渦拡散や解像度が、重力波の励起・伝播・砕波に影響し、それが QBO 的振動の有無または振動周期に影響している可能性が高い。