JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI32] [JJ] 計算科学による惑星形成・進化・環境変動研究の新展開

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、小河 正基(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、井田 茂(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[MGI32-P01] 高解像度 LES によって得られた火星大気境界層における循環構造

*村橋 究理基1西澤 誠也2石渡 正樹1小高 正嗣1中島 健介3竹広 真一4杉山 耕一朗5高橋 芳幸6林 祥介6 (1.北海道大学、2.理化学研究所 計算科学研究機構、3.九州大学、4.京都大学 数理解析研究所、5.松江工業高等専門学校、6.神戸大学 / 惑星科学研究センター)

キーワード:火星、大気境界層、高解像度ラージエディーシミュレーション、乾燥対流、地表面応力、ダスト巻き上げ

1. はじめに
火星大気には大気境界層中の風により地面から巻き上げられたダストが存在し, 大気の温度構造などに大きな影響を与えている (Montabone et al., 2005). 多くの大気大循環モデル (GCM) を用いた研究においては, 火星大気境界層内のサブグリッドスケールの風によるダスト巻き上げが重要であると考えられており, その過程をパラメータ化して表現している. パラメータ化の妥当性の検証は, 計算で得られるダストの光学的深さや温度分布が観測結果と整合的であるか否かで検討されている.

ダスト巻き上げ過程のパラメータ化に関して, 大気境界層における循環場の微細構造と直接比較することにより検証することが望ましいが, そのような検討はこれまでされてこなかった. そのためラージエディーシミュレーション (LES) を用いた調査が行われている. Fenton and Michaels (2010) はモデルの水平解像度を 100 m として, 初期に与える水平風の分布を変えた LES 実験を行った. 地表面摩擦速度を求めた結果, 初期の水平風分布によってはダストの巻き上げが十分起こることが示された. しかし彼らの計算解像度は粗く, ダストデビルのような数十 m スケールの現象が与える影響は考慮できていない. これに対して Nishizawa et al. (2016) は計算解像度を等方 100 m から 5 m まで変えた LES 実験を行うことで, 計算解像度依存性について調べた. 初期に水平に一様な静止大気を設定した. 等方格子による解像度 5 m の計算は, これまで行われた 火星 LES 計算の中で格段に解像度の高いものである. 彼らはモデル高度 62.5 m における渦度と鉛直風について調べた. その結果, 鉛直風の空間分布について, 細く強い上昇流を境界に持つセル状構造の存在が示された. またモデル内で生じる渦の強度や半径の計算解像度依存性について調べ, 高解像度計算の方がより強く, 小スケールの渦まで表現されることを示した. 以上の先行研究においては, ダスト巻き上げに関わる地表面付近の様子については調べられていない.

本研究では, ダスト巻き上げを決定づける地表面応力が循環場の構造とどのような対応を持つか理解することを目指し, 地表面付近の循環場及び地表面応力場について調査を行う. 本発表では地表面付近であるモデル最下層に注目して調べた結果を示す.

2. 使用データ
解析に使用するのは, Nishizawa et al. (2016) で計算されたデータである. これは, RIKEN/AICS で開発された SCALE-LES ver.3 を使用して得られたものである. 計算で用いた各パラメータ値は, 火星を想定して設定されている. 計算領域のサイズは 19.2 km × 19.2 km × 21 km, 解像度は 100 m から 5 m の間で数種類用いられている. 加熱・冷却率及び地表温度については, Odaka et al. (2001) による一次元モデルで得られた結果を外部から与える. 水平境界条件は周期境界である. 初期条件は, Odaka et al. (2001) の 0:00 (地方時) における鉛直温度分布に微少な温位擾乱を加えた静止大気である. 上記データの内, 解像度 5 m のものは, 解像度 10 m で 14:00 (地方時) まで計算した結果を初期値として, 1 時間分計算して得られたものである. 本研究では計算解像度 5 m の 14:30 におけるデータを用いた. Nishizawa et al. (2016) と同様, モデルに組み込まれている同一のスキームを用いて, 地表面応力を求めた.

3. 結果
地表面応力の強度頻度分布に調べた結果, 頻度は0.03 Pa 付近に向けて急激に減少し, 0.046 Pa までは緩やかに減少する. Greeley and Iversen (1985) の風洞実験で得られたダストを巻き上げる閾値である 0.03 Pa 以上の応力を持つ領域が, 計算格子 1500 万点中, 数十点程度存在している.

応力の空間分布と循環構造の対応関係について調べるため, モデル最下層 (高度 2.5 m) における風速分布を調べた. その結果, 水平スケール十数 m の細い上昇流領域が束になって網目状の構造が見られた. この上昇流領域は Nishizawa et al. (2016) で示されたようなセル状構造の境界に対応していると考えられる. またセル状構造は地表面に近づくほど水平スケールが小さいことがわかった. これらの上昇流領域は水平風収束域と一致している. また上昇流領域に沿って, 数十から数百 m の水平スケールを持つ渦度が大きい領域が存在している. 強い応力を示す場所の分布は水平風の絶対値の空間分布によく対応していることがわかった.

現在, 14:30 以外の他の時刻や解像度についても解析中である. その結果から地表面応力の強い場所における循環場の構造を調べることによって, 応力場と循環場の対応関係に関する理解を得る予定である.