JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS05] [EE] Thunderstorms and lightning as natural hazards in a changing climate

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:佐藤 光輝(北海道大学 大学院理学研究院)、Yoav Yair(Interdisciplinary Center Herzliya)、座長:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、座長:佐藤 光輝(北海道大学)

15:45 〜 16:00

[MIS05-14] 上流下層加湿法によるレーダデータ同化に基づく積乱雲の短時間予測

★招待講演

*若月 泰孝1 (1.茨城大学)

キーワード:積乱雲、短時間予測、雲解像大気モデル

一般に、雷は積乱雲の活動に伴って発生する。したがって、雷の発生やその変化を事前に予測するためには、大気環境場の把握と同時に積乱雲の把握と予測が必要である。しかしながら、積乱雲の予測には極めて困難な問題がある。積乱雲に伴う雨の直近の予測は、降水エコーの時間外挿に基づくナウキャストにより予測計算が実施されている.しかし、積乱雲に伴う降水は数十分程度の短い時間で大きく変動するため、定常性を仮定するこの予測手法では予測精度が時間とともに急激に低下する。30分程度先までが予測の限界といえる。一方で、雲解像大気モデルを用いた数値シミュレーションによる予測にも困難さがある。観測と予測を結び付けるデータ同化による初期値作成の計算に時間を要するため、実際の短時間予測に間に合わないことが多い。さらに、現時点でのデータ同化では、積乱雲の内部構造の再現が十分でないために、直近の積乱雲の振舞いの予測精度は必ずしも高くない。そこで、若月(2015)は、上流下層加湿法という簡便なレーダデータ同化手法を開発し、積乱雲の振舞いの予測を実施した。積乱雲の振舞いは強いカオス性を伴うため、短時間間隔での予測の更新が望ましいが、この方法は3時間程度先までの予測を10分程度の間隔で更新することを念頭に置いた時に、実現可能な簡便さを持ったデータ同化手法である。積乱雲の観測情報として最も有益な気象レーダから得られる情報を、積乱雲の移動ベクトルを用いて、上流側に逆流させる。レーダ反射強度は雨水量に関係する情報を持っているが、これを上流伝搬に伴い、雨をもたらす積乱雲の初期構造に関する情報に変換する。変換方法の一つとして、下層大気を湿潤化させることで積乱雲を生成させる。このレーダ情報の変換は、四次元変分法データ同化システムの概念を簡便化したものといえる。
2013年9月2日に埼玉・千葉県でF2クラスの竜巻が観測された.この竜巻を発生させた積乱雲はスーパーセルと呼ばれる回転する積乱雲であった.また、2014年8月20日に発生した広島豪雨は、積乱雲が連続して同じような領域に発生し続けることで、積乱雲群の一種である線状降水帯を形成した。この2つの事例について、上流下層加湿法による予測実験を実施した。雲解像大気モデルとして、名古屋大学で開発されたCReSSを用いた。10 mm/h以上の降雨強度領域を推定された移動ベクトルを用いて10~40分上流に逆流させ、その領域の当該時刻(10~40分前)の下層を飽和させる。飽和は自由対流高度より少し高い高度より下層とした。時定数1分程度のナッジングで強制させた。その結果、30分程度前から2013年9月2日のスーパーセルに伴う強雨を予測することができた。なお、逆流時間を20分程度にするのが最もスコアがよく、これは積乱雲の発生から強雨を観測するまでの時間と解釈することができた。広島豪雨の事例においても、線状降水帯を比較的良好に予測することができた。従来の移動予測に基づく気象庁降水ナウキャストと比較した。線状降水帯が定常状態の時には、上流下層加湿法による予測スコアは必ずしもよいとは言えなかった。しかし、降水帯の生成・消滅期など、変化の大きい期間のスコアは比較的よいことがわかった。いずれに事例も、雲解像モデル実験のみに出現する偽物の積乱雲を消去させる必要があり、その手法を検討中である。この手法による予測は、雲解像大気モデルシミュレーションに基づいているため、積乱雲の3次元的構造とその変化が予測される。したがって、発雷に関わる予測情報などへの応用も期待される。また、この手法において、気象レーダだけでなく雷観測情報もデータ同化に利用できる可能性も持っている。そのためには、X-bandマルチパラメータレーダなどの気象レーダと雷観測を組み合わせたネットワーク観測情報の分析が必要不可欠といえる。今後、この手法をさらに高度化していく必要がある。