JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS06] [EE] アジア・モンスーンの進化と変動、新生代寒冷化との関係

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、Christian Betzler(University of Hamburg)、Peter Dominic Clift(Louisiana State University)

[MIS06-P09] Sulfur isotope geochemistry of the Japan Sea sediments (IODP Exp. 346) 30 ~ 220 kyr ago: Implications for the evolution of Asian Monsoon climate system

*押尾 秀1山口 耕生1,2高橋 聡3多田 隆治3奈良岡 浩4池原 実5山口 飛鳥6 (1.東邦大学大学院理学研究科化学専攻、2.NASA Astrobiology Institute、3.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、4.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、5.高知大学海洋コア総合研究センター、6.東京大学大気海洋研究所)

約5000万年前に生じたインド大陸とユーラシア大陸の衝突によるヒマラヤ山脈とチベット高原の形成に伴い、東アジア一帯の気候に影響を与えるモンスーン気候システムが形成された。 このモンスーン気候の影響により、日本海堆積物には数cm〜数十cm間隔で有機炭素の量の違いによって生じる明暗互層が発達する。この違いは、一次生産の変動、あるいは有機物の保存効率の変動を反映している。前者の場合は栄養塩の状態、後者の場合は堆積環境の酸化還元状態の変動を表している。これらの変動は大陸風化や海流の変動により生じるものであり、究極的にはモンスーンの変遷によって生じる。逆に、日本海の明暗互層の堆積物の分析により、モンスーン変動を解明できる可能性がある。
 そこで本研究では、統合国際深海掘削 (IODP: Integrated Ocean Drilling Program)の第346次航海によって2013年の夏に日本海で掘削された明暗互層の堆積物試料を用いて、酸化還元状態の変化を調べるために、硫黄の形態別存在量と安定同位体組成により海洋環境を復元し、モンスーンの変遷を解明することを試みた。
 小林 (2013) の連続抽出法を用いて、試料中の硫黄種を酸揮発性硫黄 (AVS: Acid Volatile Sulfur)、黄鉄鉱 (Spy: FeS2)、硫酸塩鉱物 (SSO4)、有機態硫黄 (Sorg)、元素状硫黄 (S0) の5形態に分けて定量した。黄鉄鉱と硫酸塩鉱物の硫黄の安定同位体組成は、九州大学のEA-IRMS (元素分析計−オンライン質量分析装置)を用いて測定した。有機炭素 (Corg) の存在量は、高知大学海洋コア総合研究センターのEAで測定した。
 暗色層ではSpy量 (0.26〜1.49 wt.%)と、Corg量 (1.16〜3.38 wt.%)が高い値を取り、明色層ではSpy量 (0.03〜0.25 wt.%)とCorg量 (0.34〜1.10 wt.%)が低い値を取った。SSO4量(0.02〜0.64 wt.%)も、明暗層でSpy量と同様の挙動を示した。Spy / Corg比は0.03〜1.00の値を取った。黄鉄鉱と硫酸塩鉱物のの安定同位体組成値(d34Spy, d34SSO4)は、試料深度や明層暗層に関係なく、それぞれ−38‰〜−34‰および−10‰〜0‰であった。
 Spy量とCorg量の関係およびd34Spy値から、暗色層は嫌気的な水塊中での硫酸還元によって形成された黄鉄鉱を含むことが明らかになった。日本海中央深部での嫌気的な水塊の形成過程は以下のものが考えられる。夏季モンスーンの発達により東アジア地域で雨が多く降り、栄養塩が豊富とされている長江由来の河川水の流量が増大し、対馬海流に乗って日本海に流入して栄養塩濃度を上昇させ、活発化した生物活動によって生産された有機物の分解により、海中の溶存酸素量が減少して嫌気的となった。冬季モンスーンが発達した際は、日本海表層の冷却によって溶存酸素濃度の高い日本海固有水の沈み込みが起き、深海に酸素が豊むようになった。
 今後、IODP Exp. 346の別の(深度も異なる)掘削地点から採取した試料に関して同様の分析を行い、日本海水塊の酸化還元状態の構造の変遷を明らかにしていきたい。