JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS10] [EJ] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:大島 慶一郎(北海道大学低温科学研究所)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)

[MIS10-P02] 季節海氷融解期の生態系:海氷中生物−ハダカイワシ間のエネルギー転送過程

*茂木 正人1,2真壁 竜介2,3溝端 浩平1高尾 信太郎2,3嶋田 啓志1宮崎 奈穂1高橋 邦夫2,3小達 恒夫2,3 (1.東京海洋大学、2.国立極地研究所、3.総合研究大学院大学)

キーワード:海氷生物群集、海氷微細藻類、食物網、海氷縁辺域、マリンスノー、デトリタス

南大洋における海氷の季節的消長は、南大洋生態系の動態をつかさどる重要な要素である。沿岸ポリニアなどで生成された海氷は、その中に微小な藻類や原生動物、甲殻類幼生などのSea ice biota(SIB)を包含し、秋から冬にかけて北側へ移送され広大な面積を覆っていく。このSIBは、春から夏の海氷融解期に北から順次水柱中に放出される。この放出されるSIBの生物量は膨大なものと考えられるが、放出後の海洋生態系における経路・動態はよく分かっていない。今後気候変動とともに予想される海氷量の変動は、この経路を通して、生態系変動として南大洋に広く波及すると考えられる。
 
我々は、このSIBが放出されたあとどのように南大洋生態系に流れていくのかを調べており、これまで、鳥類をはじめとする高次捕食者の餌として重要なハダカイワシ科魚類Electrona antarcticaが、初期生活史において海氷の影響下にある海域を利用していることを明らかにしている。本講演では、1)海氷中やその周辺海域の微細藻類群集の情報から、水柱中に放出されあとの微細藻類群集の動態について調べた結果を紹介する。さらに、2)E. antarctica仔魚の胃内容物中に見出されるデトリタスを分析したところ珪藻類が多量に含まれることが分かった。これらのデトリタスの由来についても考察する。

融解期に海氷から放出された総細胞数と観測時における表層水柱に現存した細胞数を比較したところ、海氷中に優占したほとんどの種において、90%以上が表層混合層から除去されていることが分かった。このことから微細藻類の多くが放出後、沈降や動物プランクトンによる摂食圧を受けて、水柱から除去されていたと推定される。E. antarctica仔魚は、胃内容物にデトリタスが含まれることや、デトリタスを摂食することが知られているOncaea属のカイアシ類が含まれることから、とくに仔魚の初期においてはデトリタスが一定の役割をもつことは明らかである。そのデトリタスに含まれる珪藻の中には主として海氷中に見出される種も含まれることから、沈降する動物プランクトンの糞粒やマリンスノーを介して、間接的にSIBを摂食していると推定される。

2017年には氷縁近傍でのセジメントトラップを装備した漂流系の観測を行っており、サンプルの解析が進めばSIBの沈降過程について直接的な情報が得られるであろう。また、E. antarctica仔魚については、デトリタスのゲノム解析やバイオマーカーの分析を行い、より詳細にSIBからの物質の流れを解明していく計画である。