JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] [JJ] 山岳地域の自然環境変動

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールB (国際会議場 2F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(信州大学理学部)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:鈴木 啓助(信州大学)

16:15 〜 16:30

[MIS13-04] 山岳地域における積雪期の熱収支解析

*西村 基志1佐々木 明彦2鈴木 啓助2 (1.信州大学大学院理工学系研究科、2.信州大学理学部)

キーワード:熱収支解析、融雪、気象観測

積雪融解に関する研究はその土地の自然環境を形成する因子を理解する上で非常に重要である.積雪融解にはその地点の大気環境が最も重要であるが,大気環境は気候や地域によって大きく異なるため,ある地点での積雪融解を理解するためには実際に気象観測を行い,実測値に基づいた議論が必要である.本研究では乗鞍岳東斜面の標高1590 m 地点において気象観測と熱収支解析を行い,積雪融解に寄与する熱量の時間変化と融解特性を明らかにした.本研究成果は気象条件や地形などによって異なる融解特性について,未だ詳細に明らかになっていない山岳地域の亜高山帯下部での積雪融解の地域的特徴を明らかにするものである.

乗鞍岳東斜面の標高1590 m地点の平坦地にて,2011/12年~2015/16年冬季の2014/15年を除く積雪期に気象観測と熱収支解析を行った.気象観測項目は,気温,相対湿度,風速,気圧,降水量,短波放射収支,長波放射収支および積雪深である.風速のデータは10分毎,その他のデータについては60分データを用いて解析を行った.また,任意の時刻の積雪密度と積雪深変化量を用いて積雪融解量を計算する雪面低下法を用いて,熱収支解析による融解量計算結果と照合し,解析結果の妥当性を検討した.

気象観測の結果,本研究地点では気温と水蒸気圧が低く,風速が小さいという気象特性が明らかになった.熱収支解析を行った結果,放射収支による熱量が総融解熱量に対してほぼ100 %を占める割合であり,顕熱輸送量と潜熱輸送量はそれぞれ10~15 %と‐20 %を占めることが明らかになった.また,降雨時には短波放射収支が減少し,長波放射収支が増加した.また,顕熱輸送量と潜熱輸送はそれぞれわずかに増加した.降雨時には多くの融解熱量が供給されるが,降雨による伝達熱自体は総融解熱量の1 %程度であり,ほとんど融解には影響していなかった.融雪期後期における雪面低下法による融解量は水当量で544 mmだったのに対し,熱収支法は515 mmであり,概ね一致した.

熱収支解析により,放射収支による熱量が総融解熱量に対して大部分を占めていることが明らかになった.これは気温と水蒸気圧が低く,風速が小さいという気象特性が顕熱輸送量と潜熱輸送量を小さくしている為であると考えられる.また,降雨時には気温と水蒸気圧が増加するために,顕熱輸送量と潜熱輸送量が増加するため,晴天時に比べ多くの融解熱が供給された.雪面低下法と熱収支法によるそれぞれの融解量を比較すると両方法の差は約30 mmだった.本研究で用いた熱収支法は地表面からの熱輸送などを考えていない.それらを含めた融解量を考慮すると両方法の融解量はほぼ一致するため,本研究における熱収支解析の妥当性が示された.