JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] [JJ] 山岳地域の自然環境変動

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 301B (国際会議場 3F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(信州大学理学部)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

10:00 〜 10:15

[MIS13-11] ケニア山における同位体高度効果を用いた氷河融解水と山麓河川、湧水の関係性の解明

*大谷 侑也1 (1.京都大学大学院文学研究科地理学専修)

キーワード:東アフリカ、氷河縮小、水環境、安定同位体

ケニア山(5199m)は赤道直下にあるにもかかわらず、その頂に氷河を有する。しかし、近年の地球規模での気候変動により、その「熱帯の氷河」は急速に縮小している。ケニアは概して降雨量が少なく、その年変動は大きいため、降雨のみで農業や生活用水を安定的に供給することは難しい。しかしケニア山周辺では山体由来の地下水が安定的に供給されるために、コーヒーや紅茶、バラ等の生産が可能な環境が整っている。そのような状況下、氷河の融解水がどの程度周辺域の水環境に寄与しているかはわかっていない。

 本研究の目的は、ケニア山の水環境の現状と氷河融解水の位置づけを明らかにし、今後氷河が減ることによって周辺域の水環境や生態系、山麓に住む人々に与えられる影響を把握することである。ケニア山の標高3000m以上では河川水、湧水、氷河融解水、降水を採水し、標高3000m以下の山麓域では湧水、河川水を採水し、現地観測を行った。それらのサンプルを日本に持ち帰り、酸素・水素同位体比を測定した。

 採水した降水サンプルの酸素同位体比から、明瞭な高度効果(標高が高くなると酸素・水素同位体比の値が低くなる効果)が確認された。この高度効果直線の算出により、山麓域で利用される湧水や河川水の涵養標高を推定することができた。西麓の標高1997m付近に流れ、住民に広く利用されるティゲディ川の酸素同位体比は−3.089‰であった。この値を今回得られた高度効果の直線(y = -469.35x + 3630.4)に代入すると5080.2(m)となる。その標高帯は氷河と積雪が多く存在することから、ケニア山西麓の河川水は氷河と降雪の影響を強く受けている可能性が高い。一方で、標高1972mの山麓湧水の酸素同位体比(−3.32‰)から、その涵養標高を推定すると5191.8(m)と算出されることから、山麓湧水においても山頂部の氷河と降雪が大きく寄与していることが示唆された。

 今回の調査で得られたナロモル川の水位(1985〜2016年)から、ナロモル川の水量は減少傾向にあることが確認された。一方で山体の高い標高帯における降水量は、大きな減少傾向を示しておらず、山麓の河川水量減少は、近年の急速な氷河融解水の減少の影響を受けていることが考えられる。

 トリチウム、CFCs、酸素同位体比の分析の結果、ケニア山の5000m付近の氷河地帯の水がケニア山の山体に取り込まれてから山麓の湧水として流出するまで40〜60年かかることが判明した。40〜60年前には、ケニア山の5000m付近には広大な氷河が存在していた。したがって、40〜60年前の氷河融解水が山麓に流出していると考えられる。以上の結果から、ケニア山における氷河縮小により、将来的に山麓の水資源は減少することが推測され、地域住民の農業や生活用水に大きな影響が出ることが予想される。