10:45 〜 11:00
[MIS13-13] ケニア山とボリビア・アンデスにおける植物分布に関わる氷河後退と地球温暖化
★招待講演
キーワード:地球温暖化、氷河後退、植生遷移、熱帯高山
1. ケニア山における温暖化による氷河縮小と植生遷移
ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1997年には2.9m/年、1997-2002年は9.8m/年、2002-2006年は14.8m/年、2006-2011年は8.2m/年、2011-2016年は11.0m/年であった。その氷河の後を追うように、Senecio keniophytumやArabis alpinaのような先駆的植物種は、それぞれの植物分布の最前線を氷河の後退速度と類似する速度で斜面上方に拡大させている。地衣類・蘚苔類やAgrostis trachyphyllaも前進していた。これらの種は氷河の後退と同様に1997年以降に、それ以前に比べて早い速度で前進していた。
1996年に氷河末端に接して設置した方形区(幅80mx長さ20m)での植物個体数(群数)と植被率がともに、15年後の2011年には大幅に増加していた。1996年には、個体数(郡数)と植被率がともに、氷河の末端から16-18mの距離で、それ以内の距離に比べて有意に高かった。このことは、氷河から最近開放された場所では、氷河末端からの距離が、植物個体数(群数)と植被率の両方に影響を及ぼしていることを示している。1984年から1996年の氷河の後退速度を2.9m/年とすると、Senecio keniophytum の実生の多くは、氷河から解放されてから5-6年で発芽したことになる。氷河末端からの距離の効果は、氷河から解放されて15年以上経っている場所では確認されなかった。
ケニア山山麓(高度1890m地点)の月平均最低気温と月平均最高気温は1963年から2011年までの48年間で2℃以上上昇している。一方、1956年からの過去55年間に、年による変動はあるものの、顕著な降水量の減少はなかった。ティンダル氷河の後退する速度は、調査地周辺の高度4500mにおける月平均最低気温の上昇によって説明されることができた。Senecio keniophytumの移動は、ある程度のArabis alpinaの移動とともに、氷河の後退する速度によって説明することができた。
ムギワラギクの仲間Helichrysum citrispinumは、2006年までティンダル・ターン(池)(4470m)の北端より斜面上方には生育していなかったが、2009年には4470m以上のラテラルモレーン上に32株が確認された。この種の分布拡大に氷河後退が直接影響しているようには見えず、むしろ、この植物分布の高標高への拡大は気温上昇と関係していることが推定される。Helichrysum citrispinum の分布拡大は2009年に3-9月の生育期間中約1℃気温が高かったことが影響していると推測される。
2. ティンダル氷河周辺の植生に影響する環境条件
大型の半木本性ロゼット型植物であるジャイアント・セネシオ(Senecio keniodendron)とジャイアント・ロベリア(Lobelia telekii)の生育前線の移動変化は、1997年までは氷河の後退とは無関係のように見えたものの、それ以降は、斜面上方に前進している。これらの種の遷移は、氷河の後退とは直接関係あるようには見えず、むしろ、先駆種による土壌条件の改善や地表の安定性、気温上昇がそれらの生育環境を斜面上方に拡大させていると考えられる。
3.ボリビア・アンデスのチャルキニ峰の氷河縮小と植生遷移
ボリビア・アンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールにおいて分布するモレーンとその植生分布を2012-2014年に調査した。チャルキニ峰西カールは、Rabatel (2005)により、モレーンが1-10に区分されている。それらのモレーンのうち、Rabetel(2005)で年代が示されているモレーン2:1700±12、モレーン3:1739±12、モレーン6:1791±10、モレーン9:1873±9と、Rabatel(2005)に出てこない、さらに新しいモレーン11の計5カ所に10mx10mのプロットを設け、そのなかの2mx2mの方形区ごとに、植生分布と地表面構成物質の礫経分布を調査した。また、氷河末端付近の植生分布も調査した。モレーン11の年代は1970年代と推定される。
モレーンの年代が新しくなるにつれて、分布する堆積物の礫経も大きく、植物の出現種数や植被率が低下していった。現在の氷河末端は高度4990mであり、氷河末端付近における出現種はPerezia sp.(Perezia multiflora ?)、Deyeuxia chrysantha、Senecio rufescensの3種のみで、それらが大きな岩塊のわきに点在し、植被率はきわめて低い。
ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1997年には2.9m/年、1997-2002年は9.8m/年、2002-2006年は14.8m/年、2006-2011年は8.2m/年、2011-2016年は11.0m/年であった。その氷河の後を追うように、Senecio keniophytumやArabis alpinaのような先駆的植物種は、それぞれの植物分布の最前線を氷河の後退速度と類似する速度で斜面上方に拡大させている。地衣類・蘚苔類やAgrostis trachyphyllaも前進していた。これらの種は氷河の後退と同様に1997年以降に、それ以前に比べて早い速度で前進していた。
1996年に氷河末端に接して設置した方形区(幅80mx長さ20m)での植物個体数(群数)と植被率がともに、15年後の2011年には大幅に増加していた。1996年には、個体数(郡数)と植被率がともに、氷河の末端から16-18mの距離で、それ以内の距離に比べて有意に高かった。このことは、氷河から最近開放された場所では、氷河末端からの距離が、植物個体数(群数)と植被率の両方に影響を及ぼしていることを示している。1984年から1996年の氷河の後退速度を2.9m/年とすると、Senecio keniophytum の実生の多くは、氷河から解放されてから5-6年で発芽したことになる。氷河末端からの距離の効果は、氷河から解放されて15年以上経っている場所では確認されなかった。
ケニア山山麓(高度1890m地点)の月平均最低気温と月平均最高気温は1963年から2011年までの48年間で2℃以上上昇している。一方、1956年からの過去55年間に、年による変動はあるものの、顕著な降水量の減少はなかった。ティンダル氷河の後退する速度は、調査地周辺の高度4500mにおける月平均最低気温の上昇によって説明されることができた。Senecio keniophytumの移動は、ある程度のArabis alpinaの移動とともに、氷河の後退する速度によって説明することができた。
ムギワラギクの仲間Helichrysum citrispinumは、2006年までティンダル・ターン(池)(4470m)の北端より斜面上方には生育していなかったが、2009年には4470m以上のラテラルモレーン上に32株が確認された。この種の分布拡大に氷河後退が直接影響しているようには見えず、むしろ、この植物分布の高標高への拡大は気温上昇と関係していることが推定される。Helichrysum citrispinum の分布拡大は2009年に3-9月の生育期間中約1℃気温が高かったことが影響していると推測される。
2. ティンダル氷河周辺の植生に影響する環境条件
大型の半木本性ロゼット型植物であるジャイアント・セネシオ(Senecio keniodendron)とジャイアント・ロベリア(Lobelia telekii)の生育前線の移動変化は、1997年までは氷河の後退とは無関係のように見えたものの、それ以降は、斜面上方に前進している。これらの種の遷移は、氷河の後退とは直接関係あるようには見えず、むしろ、先駆種による土壌条件の改善や地表の安定性、気温上昇がそれらの生育環境を斜面上方に拡大させていると考えられる。
3.ボリビア・アンデスのチャルキニ峰の氷河縮小と植生遷移
ボリビア・アンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールにおいて分布するモレーンとその植生分布を2012-2014年に調査した。チャルキニ峰西カールは、Rabatel (2005)により、モレーンが1-10に区分されている。それらのモレーンのうち、Rabetel(2005)で年代が示されているモレーン2:1700±12、モレーン3:1739±12、モレーン6:1791±10、モレーン9:1873±9と、Rabatel(2005)に出てこない、さらに新しいモレーン11の計5カ所に10mx10mのプロットを設け、そのなかの2mx2mの方形区ごとに、植生分布と地表面構成物質の礫経分布を調査した。また、氷河末端付近の植生分布も調査した。モレーン11の年代は1970年代と推定される。
モレーンの年代が新しくなるにつれて、分布する堆積物の礫経も大きく、植物の出現種数や植被率が低下していった。現在の氷河末端は高度4990mであり、氷河末端付近における出現種はPerezia sp.(Perezia multiflora ?)、Deyeuxia chrysantha、Senecio rufescensの3種のみで、それらが大きな岩塊のわきに点在し、植被率はきわめて低い。