JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] [JJ] 山岳地域の自然環境変動

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(信州大学理学部)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS13-P02] 八幡平南部における湿地の分布特性と形成環境

*佐々木 夏来1須貝 俊彦1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:湿地分布、火山原面、地すべり、積雪、奥羽山脈

山岳地域で湿地が成立するためには,豊富な涵養水とそれを滞留する地形が必要である.地すべり地内の湿地は,滑落崖付近からの湧水が期待できるのに対して,稜線沿いの湿地は天水が主な涵養水となるため,積雪の多寡が重要な要因であると考えられる.本研究では,八幡平南部の岩手山周辺において湿地の分布と地形,積雪との関係を明らかにする.
湿地分布は,1976年に国土地理院が撮影した縮尺1:18000と1:15000のカラー空中写真を用いて判読した.地形分類には1988年に国土地理院が撮影した縮尺1:30000のカラー空中写真を用いた.積雪分布は,2010年1月22日に岩手山積雪水分量分布調査として計測され,岩手国道河川事務所が管理する5 mメッシュ数値表層モデル(DSM)と,2008年に計測された1 mメッシュ数値標高モデル(DEM)を用いて,ArcGIS10.2.2で計算した.

研究対象地域の東部は円錐形成層火山である岩手山(2038 m)の急斜面が卓越する一方,西部は八幡平火山群の緩やかな稜線が続いている.南には,西側隆起の逆断層である雫石盆地西縁断層帯が存在し,調査地では相対的に東側が沈降した小崖が南北方向に多数認められる.積雪分布は,大局的には北西で多く,東ほど減少する傾向が見られるものの,岩手山のカルデラ内や東側斜面でも積雪は多い.西向き(風衝)斜面では強い冬季季節風によって雪が飛ばされるために積雪量が非常に少なく,巻き上げられた雪は南北に延びる尾根や小崖の東向き(風背)斜面に,積雪深5 m以上の局所的な吹き溜まりを形成する.空中写真判読によって認定した108の湿地のうち,火山原面上には72,地すべり土塊上には35の湿地が立地していた.本研究対象域では,火山原面上の湿地は,特に積雪が集中する小崖の風背側斜面や,積雪はそれほど多くはないが周辺から水が集まりやすい鞍部に集中している.積雪が多くとも谷が発達する急傾斜地には湿地はあまり見られない.また,岩手山山頂付近においても積雪が多いが,噴火口以外で湿地はほとんど見られない.これは,厚く堆積したスコリアが水を地下へ浸透させるためと考えられる.一方で,地すべり土塊内の湿地は,積雪の多寡とは無関係に,滑落崖下の湧水の得やすい場所に発達している.火山原面上,地すべり土塊内のいずれの湿地も,涵養水を安定的に継続して得られる地形場に成立していると言える.