JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] [JJ] 生物地球化学

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:和穎 朗太(農研機構 農業環境変動研究センター)、座長:仁科 一哉(国立環境研究所)、座長:稲垣 善之(森林総合研究所)、座長:藤井 一至(森林総合研究所)

14:45 〜 15:00

[MIS19-17] 植物中の硝酸の同位体組成 : 自然同位体組成を指標に用いた大気中の窒素酸化物の寄与評価

*小幡 祐介1池谷 康祐1,2中川 書子1角皆 潤1 (1.名古屋大学環境学研究科、2.農業環境技術研究所)

キーワード:植物、窒素酸化物、三酸素同位体組成

窒素は生物の必須元素の一つであり、植物が窒素を取り込む (同化) ときの代表的な形態がNO3-である。植物が同化するNO3-の大部分は、土壌から供給されていると考えられているが、それ以外に大気中の窒素酸化物を取り込んで体内でNO3-化し、その一部は窒素源として用いられていることが知られている。このような窒素代謝過程の解析は、従来は人工的に15Nを濃縮したNO3-等を投与して培養する15Nトレーサー法を用いて研究されてきたが、15Nトレーサー法を植物に応用する場合、培養に長大な時間と労力を要する上に、培養操作が植物の生育環境を変化させてしまうという問題があった。そこで本研究では、植物試料から抽出したNO3-の自然同位体組成をトレーサーとして用いることで、植物体内におけるNO3-の起源や同化過程を明らかにすることを試みた。特にδ15N、δ18Oだけでなく、三酸素同位体組成 (Δ17O) を同時に分析することで、大気中の窒素酸化物の寄与評価に重点を置いたので、その結果を中心に報告する。

本研究で試料としたのは、名古屋大学東山キャンパス内に自生するメタセコイアやヒノキなどの針葉樹、アラカシやソメイヨシノなどの広葉樹を含む木本類、ササを含む草本類の葉で、2016年4月から2017年4月までひと月に1回のペースで同じ個体について採取したものである。採取した試料は超純水を用いて外表面を丁寧に洗浄した後、乾燥させたうえで粉砕し、超純水にNO3-を抽出した上で、夾雑物を濾過により取り除いた。抽出液中のNO3-は、一酸化二窒素 (N2O) に化学的に変換してからその濃度およびδ15N、δ18O値を、さらにN2OをO2に変換することによってNO3-の三酸素同位体組成 (Δ17O値) を、それぞれ連続フロー型安定同位体質量分析計を用いて定量した。

NO3-の濃度は、植物の乾燥重量あたり0.1から0.5 (μmol/g) で、明瞭な季節変動は見られなかった。δ15N値は植物間で-25から+10‰まで大きな違いが見られた。土壌中に含まれるNO3-のδ15N値は-5から+5‰程度なので、これと比較すると、少なくともアラカシやメタセコイアが有意に低いδ15N値を示した。δ18O値は供試した全ての植物で+60から+80‰程度であり、土壌水に含まれるNO3-中のδ18O値 (-10〜0‰) よりはるかに高い値を示した。さらにΔ17O値は+13から+20‰程度の大きな異常を示した。これらは土壌から吸収したNO3-では説明できない値であり、本手法で植物から抽出されるNO3-の大部分は、大気中のNO2に由来するNO3-であることが明らかになった。