JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] [JJ] 地球掘削科学

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:山田 泰広(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)、道林 克禎(静岡大学理学部地球科学科)、池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、座長:山田 泰広(海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)、座長:稲垣 史生(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[MIS22-09] 室戸沖南海トラフ先端部デコルマの温度場・水理場予測 -T-Limitsは温度限界か?-

*木下 正高1許 正憲2秋山 敬太2稲垣 史生2Heuer Verena3諸野 祐樹2IODP370次航海 研究者 (1.東京大学地震研究所、2.海洋研究開発機構、3.ブレーメン大学)

キーワード:IODP、室戸沖南海トラフ、熱流量

地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第370次航海「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-Limit)」(共同主席:稲垣・Heuer・諸野)が,平成28年9月12日〜11月10日にかけて高知県室戸沖沈み込み帯先端部で実施された.主目的の一つは,生命の限界を規定する主要因の一つが温度であるという仮説を検証するために,その限界温度(120℃)に達していると予測され,かつエネルギーや栄養が補給されうると考える先端部デコルマにJ-FAST型の温度計アレーを含む簡易型孔内観測システムを設置することである.「デコルマ生命圏」の環境把握のため,デコルマおよびその下の現場温度を正確に知るとともに,そこを流れる流体・物質のフラックスを把握することを目指すものである.
本掘削孔の近傍には既存の熱流量データが存在しない.本地点を含む室戸沖付加体先端部では熱流量が海側に向かって急増することが知られているため,熱流量から予測される地下温度はおのずから大きな不確定性を持つ.既存データから推定した熱伝導率構造や,急激な堆積効果の補正を行い,海底熱流量が167~185 mW/m^2 の幅を持つ(基盤からの熱流量では180~200 mW/m^2)として,デコルマ(海底下760m)の温度は93-111℃と予測した.一方,デコルマやその下に流体移動があった場合に期待される温度異常が実際に検出できるか,検討した.JFASTなどの前例や数値計算の結果,初期擾乱の影響や,デコルマに出現する温度異常が孔内温度センサーまで到達する時定数は10-20日程度であることが分かった.孔内では M2潮汐周期では入力に対して10%以下に減衰するが,数日よりも長い周期の変化であればそれなりに検出できる.
先行研究から,室戸沖デコルマ下の幅数十mの高い間隙率帯は,普段は非排水状態であり,したがって間隙水圧異常が存在すると考えられている.2001年に本掘削地点から1㎞強離れた地点(ODP808孔)に孔内間隙水圧観測所(ACORK)がデコルマまで設置され,現在も観測継続中である.数年に一度発生する超低周波地震や,遠地地震に応答する応力変動に対するレスポンスが数日遅れで観測されている.今回の観測所では温度のみの観測であるが,ACORK観測による変動データと併せて,デコルマ付近の水理特性が流体移動の様子から推定できると期待される.
掘削孔はデコルマを超えて海洋地殻(1180m)まで到達したが,ケーシングはデコルマ(760m)を超えて860mまでセットされた.温度計アレーは4.5インチのチュービング(鉄管)にセットされるが,ケーシングから5m下まで下げることとし,760mのデコルマ付近に密に温度計を配置した(トータルで55個).温度計測の分解能はmK~30mKである.なお120℃を超える高温で1年間の観測を可能にするため,一つは市販の温度計(Hobo;低分解能)に加えて,新たに開発した温度計(MTL1882;高分解能)とサーミスターアレー(高分解能)を用いた.温度計・温度データの回収は,ROVを用いて2018年3月頃に実施予定である.