JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

10:45 〜 11:00

[MIS23-01] PMIP3マルチモデルが示す中世温暖期におけるアジアモンスーン開始期の遅れ

*釜江 陽一1,2川名 冬士3大城 萌美4植田 宏昭1 (1.筑波大学生命環境系、2.カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所、3.筑波大学地球学類、4.筑波大学生命環境科学研究科)

キーワード:アジアモンスーン、海陸コントラスト、中世温暖期、小氷期

アジアモンスーンはアジア大陸・海洋間で季節的に卓越風向が逆転する現象として、南アジアから東アジアにかけて広く確認することができる。気候モデルを用いた過去百年~千年スケールの気候変動再現実験からは、地球軌道要素の変動に伴う大気上端短波入射量の緯度・季節配分の変動が、アジアモンスーン変動を駆動することが指摘されている。中世温暖期(西暦950~1250年)と小氷期(西暦1400~1700年)を比較すると、夏季に北半球中高緯度の入射量が多い中世温暖期には、小氷期に比べてユーラシア大陸上がより温暖で、夏季アジアモンスーンが強まっていたことが指摘されている。古気候モデリング相互比較プロジェクト(PMIP3)に参加したマルチモデルの実験結果を比較すると、モデル間で大きなばらつきが存在するものの、大陸スケールの温度勾配とモンスーン強度の変化は概ね整合的である。
アジアモンスーンの駆動源である短波入射量は、中世温暖期と小氷期を比較すると、北半球中高緯度では7~9月に正偏差のピークを迎える。一方で、北半球冬季からプレモンスーン期にかけては、短波入射量は逆に負偏差を示す。このような季節的に非対称な短波入射量変動は、アジアモンスーンのオンセット時期に影響しうる(e.g. Ueda et al. 2011)。本研究ではPMIP3マルチモデルデータセットと、気候モデルを用いた感度実験から、小氷期と比較した中世温暖期のアジアモンスーンオンセット時期と短波入射量との物理的関係を検証した。
PMIP3マルチモデル平均は、中世温暖期の7~9月ユーラシア大陸気温が小氷期よりも高く、アジアモンスーンが強まる一方で、4~6月は逆に大陸が低温偏差に覆われ、モンスーンのオンセットが遅れる傾向を示す。対流圏中上層の気温の海陸コントラストは、このモンスーンの変動を表す指標として有効である。気象研究所大気海洋結合モデルに中世温暖期、小氷期それぞれの軌道要素のみを与えた感度実験を実施すると、上記の傾向を概ね再現する。この結果は中世温暖期のアジアモンスーンオンセットの遅れがマルチモデル間で堅牢な傾向であり、それが軌道要素の緩やかな変動に起因する可能性を示している。

参考文献
Ueda, H., et al. 2011. Clim. Dyn., doi:10.1007/s00382-010-0975-z.