JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

15:00 〜 15:15

[MIS23-12] インドネシア・ジャワ島の年輪セルロース酸素同位体比の気候応答 ―プロキシシステムモデルを使った解析結果―

*久持 亮1渡邊 裕美子1栗田 直幸2佐野 雅規3中塚 武3松尾 美幸4山本 浩之4杉山 淳司5津田 敏隆5田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.名古屋大学宇宙地球環境研究所、3.総合地球環境学研究所、4.名古屋大学大学院生命農学研究科、5.京都大学生存圏研究所)

キーワード:樹木年輪、プロキシシステムモデル、酸素同位体比

樹木年輪セルロース酸素同位体比は陸域の気候や水循環を年単位で復元できるプロキシとして有力である。本研究では,気候学的に重要でありながら,年輪セルロース酸素同位体比の研究がほとんど行われていないインドネシア・ジャワ島の年輪セルロース酸素同位体比を測定し,その気候応答を調べた。気候応答に解析には,気候要素(気温,降水量など)との相関解析に加え,より定量的な理解を目指して,年輪セルロース酸素同位体比モデル(プロキシシステムモデル)を用いた解析を行い,年輪セルロースの酸素同位体比の支配因子を推定した。
 本研究に使用した樹種はチーク(Tectona Grandis)である。チークは南アジア~東南アジアの熱帯モンスーン気候域に分布し,雨季・乾季に対応して明瞭な年輪を形成する。さらに天然に樹齢300~400年の古木が存在することから,熱帯域で年輪年代学・気候学の研究対象となっている数少ない樹種の1つである。インドネシアに限って言えば,年輪幅の標準年輪曲線が作成されている樹種はこのチークのみである。チークサンプルはすべて円盤で採取し,伐採年と巻き枯らし処理(立木の状態で辺材部位を削り,枯れさせること)の有無が既知である。年輪を数えることで年代を決めた後,年輪幅とセルロース酸素同位体比を測定し,個体間の変動パターンを比較することで年代が信頼できることを確認した。
 サンプル採取地点は最大で400kmほど離れているが,セルロース酸素同位体比は,すべての地点で共通の変動パターンを示した。このことは,ジャワ島の年輪セルロース酸素同位体比には,共通の気候シグナルが保存されていることを示唆している。年輪セルロース酸素同位体比と気候要素との相関解析を行ったところ,成長期(雨季)の降水量・湿度と逆相関を示し,成長期直前の乾季の降水量と正の相関を示した。次に,年輪セルロース酸素同位体比モデルを用いた解析を行った。モデルによると,年輪セルロース酸素同位体比は,根から吸い上げる水(Source water)の酸素同位体比,湿度,大気水蒸気の酸素同位体比の3つの要因によって決まる。解析の結果,この3つの要因のうち,Source waterの酸素同位体比だけでセルロース酸素同位体比の経年変動のほとんどを説明できることが分かった。また,Source waterの酸素同位体比と降水の酸素同位体比を比較した結果,Source waterは成長期前の乾季から雨季の降水で構成されていることが示唆された。
以上をまとめると,ジャワ島の年輪セルロース酸素同位体比は,成長期前の乾季から雨季の降水の同位体比の情報を保存していると考えらる。そして,降水量との相関は,降水の酸素同位体比を介して表れたものだと思われる。