JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

15:45 〜 16:00

[MIS23-14] 洪水情報が石筍中に記録される過程の解明 -大分県稲積水中鍾乳洞の場合-

*進藤 辰郎1大沢 信二2三島 壮智2渡邊 裕美子1田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

キーワード:石筍、過去の洪水、古気候学、腐植物質、堆積学

石筍中にトラップされている砕屑堆積物や泥を含む縞は通称“flood layer” (洪水縞)と呼ばれ、過去のサイクロンやハリケーンなどによって誘発された洞内洪水によって形成されたと考えられ、過去の洪水頻度の復元に用いられている(e.g., Dasgupta et al., 2010 EPSL; Frappier et al., 2014 AGU; Finné et al., 2014 Quat. Res.)。しかし、洪水による縞の形成過程についての理解は乏しくまた研究例も少ない。そこで本研究では、アジアモンスーンの影響を受けて主に夏期に洞内洪水が発生する大分県に位置する稲積水中鍾乳洞で採取した二つの石筍(SUI-1とSUI-2)を用いて、顕微鏡観察(実体・偏光・蛍光顕微鏡)によって基本的な物質科学的・鉱物学的特徴を捉え、そこから抽出できた洪水縞形成に関する情報を紹介する。

     今回の顕微鏡観察で捉えた特徴は、以下の通りである.(1)泥に満たされた溝が顕著に観察された上、石筍側面には泥のみならず、単斜輝石、磁鉄鉱、石英などの造岩鉱物が随所に確認できた;(2)洪水縞上部には多量のCaCO3の微結晶が存在していた;(3)密な縞と空隙が目立つ縞が交互に存在する層の組み合わせがあり、特に空隙には泥が埋まっているのを頻繁に確認できた;(4)泥がある部位とない部位を含めて蛍光発色は観察されなかった。

    (1)の特徴の形成については、次のような堆積学的過程が考えられる。洪水中に運搬された粒径の大きい河川懸濁物による機械的風化が石筍表面を削り、その結果溝が形成される。その溝を洞内河川水位の低下に伴い粒径の小さい泥が埋める。溝に収まらなかった粒径の大きい鉱物などは滴下水によって石筍側面まで洗い流される。(2)については、河川懸濁物が石筍表面に覆いかぶさったために連続的なCaCO3の結晶成長が一時的に阻害され、滴下水の再供給によるCaCO3の核形成及び成長の競争の痕跡であると考えられる。(3)については、空隙が目立つ縞が形成される時期と洞内洪水が発生する時期が一致するため、季節性を示している可能性がある。(4)については、石筍を生成させる滴下水中の腐植物質濃度が低すぎて蛍光顕微鏡観察では検出できなかったと思われるが、河川懸濁物中の腐植物質はCaCO3中に化学的に取り込まれないと蛍光発色までに至らないことも想像される。