JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

16:00 〜 16:15

[MIS23-15] 石筍の炭酸凝集同位体に記録された広島県での最終氷期以降の気温変化

*加藤 大和1雨川 翔太1狩野 彰宏1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:石筍、凝集同位体、気温変化、最終氷期、完新世

広島県北東部の幻鍾乳洞から採集された石筍Hiro-1は,最終氷期以降の日本列島陸上古気候を記録する貴重な試料である (Shen et al. 2010; Hori et al. 2013). しかし,気候記録として用いられる石筍の酸素同位体比は,温度変化と降水量変化の効果を多重的に記録しており,2つの効果を分離することは容易ではない.一方,炭酸凝集同位体では,石筍を沈殿させた水の同位体組成とは無関係に温度が復元できるので (Ghosh et al. 2006),近年石筍への適用も進んでいる (Affek et al. 2014).炭酸凝集同位体とは,方解石からリン酸反応で生じた二酸化炭素の中での47CO2の存在度異常を示し,その値が絶対温度の二乗に反比例することが知られている.本研究では,石筍Hiro-1の40層準での炭酸凝集同位体測定結果を発表する.
分析では,70℃でのリン酸反応で生じた二酸化炭素を,液体窒素と-10℃に冷却したカラムによって精製し,九州大学に配備されているMAT253を用いて測定した.なお,測定結果にはHe et al. (2012) のベースライン補正を適用し,測定値はDennis et al. (2011) のabsolute reference frameに投影したものを用いた.測定誤差は0.015パーミル以内であり,温度に換算すれば約3℃に相当する.また,合成方解石試料の測定結果をもとに作成した温度換算式は,Guo et al. (2009) が提示した理論式と近似するものであった.
明確な外れ値を除くと,炭酸凝集同位体で示される温度は完新世 (11−4ka) が29.7−20.7℃(平均24.8℃)であり,最後期更新世 (18−12ka) が22.4−14.3℃ (平均18.0℃) であった.現在の洞窟内温度は10.7℃であるので,提示された温度は高めに算出されていると考えられる.多くの研究で,石筍の炭酸凝集同位体から導かれる温度が実際より高い値を示すことが指摘されており(例えば,Affek et al. 2014),滴下水からの脱ガスの効果によるものと推定されている.
絶対温度復元には未だ障壁が残るものの,完新世と最後期更新世の温度差が6−7℃程度であったと考えられる.Shen et al. (2010) は,同石筍試料の完新世と最後期更新世のそれぞれの酸素同位体比の間に1.5パーミルほどの差を認めている.滴下水の酸素同位体比が安定していたと仮定すると,これは6℃の温度差に相当する.Hiro-1の酸素同位体比は雨水の値ではなく,温度変化を記録したものである可能性がある.