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[MIS23-16] トンガ王国Tongatapu島で採取した貝殻と海水の地球化学分析と環境考古学への適用可能性
キーワード:炭酸カルシウム、酸素同位体、ΔR
南太平洋島嶼国の降水は,南太平洋収束帯 (South δacific Convergence Zone: SδCZ)に大きく影響されるが,そのメカニズムや変動の理解には古気候記録の収集が不可欠である.また,気候変動や海水準変動といった古環境変動が,南太平洋における人類の拡散に影響を与えたとする研究もあるが,地球化学的手法に基づいた定量的な裏付けがなされていない.本研究は,SδCZ の影響下にあり,かつ南太平洋における人類の拡散の拠点となったトンガ王国Tongataδu島の遺跡から発掘された二枚貝の化石を用いて,中期–後期完新世の古気候・古環境を復元することを目的としている.造礁サンゴのように,貝殻は成長輪を持つ炭酸塩骨格を形成するため古環境指標試料として有用である.また,本研究で用いる二枚貝アラスジケマン(Gafrarium tumidium)は,南太平洋の遺跡において多産するため,過去の環境変動の理解だけではなく,人々の生活様式の理解にも繋がることが期待される.しかしながら,G. tumidiumの環境指標試料としての有用性はこれまでほとんど評価されてこなかった.そこで,トンガ王国において貝殻と海水試料を採取し,以下に述べる地球化学分析を行った.まず,貝殻試料について安定同位体比質量分析装置を用いて酸素・炭素同位体(δ18 O・δ13 C)値,加速器質量分析装置を用いて放射性炭素 (海洋ローカル14 Cリザーバー年代:ΔR),レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて微量元素(Sr/Ca比,Mg/Ca比など)を測定した.次に海水試料については,ロガーを用いて4ヶ月間にわたって海面水温(Sea Surface Temδerature: SST)をモニタリングしたことに加え,現地で表層塩分(Sea Surface Salinity: SSS)を,帰国後CRDS安定同位体比分析装置を用いてδ18 O値を測定した.貝殻と海水の分析の結果,(1)殻のδ18 Oが季節変動を示すことから,G. tumidumは2〜3年間の環境を殻に記録すること,(2)Sr/Ca 比はSSTやSSSの変動ではなく,成長速度を反映すること,(3)約2600年前から約1200年前にかけ,石灰基盤岩起源の14 Cの少ない炭素の寄与が増加し,この時に化石試料が採取された湾が閉鎖的になったこと,(4)G. tumidumの殻成長はSSSによって規定されていることが示唆された.特に3,4の知見については,既往の考古学研究による結果と整合的である.