16:30 〜 16:45
[MIS23-17] 深海サンゴと造礁サンゴが示す過去60万年間の年代測定の問題点の解決法
キーワード:年代測定、サンゴ、ウラン系列核種
古気候の情報の中で、全球の平均的な気候状態を表すのは、全球氷床量変動である。底棲有孔虫の酸素同位体比は氷床量変化の間接指標として用いられ、その復元によると、氷床量は現在のグリーンランド氷床3−4個分、年代の誤差は、例えば最終間氷期あたりについて、5千年ほどあるとされている (SPECMAP, LR04など)。
全球氷床量、すなわち海水準変動を直接復元するのに有効な試料に造礁サンゴがある(Yokoyama & Esat, 2015 Willey Book)。放射性炭素の発見と加速器質量分析装置の導入により、過去5万年間の年代測定については、高精度で決定されるようになった。特に近年では、シングルステージ加速器質量分析装置という小型の装置も開発され、例えば東京大学大気海洋研究所では、0.1%という誤差での測定と、炭素量で100マイクログラム以下という微量での測定も可能になってきた(例:Yokoyama et al., 2016 PNAS; Hirabayashi et al., 2017 JQS)。
一方で5万年より古い年代については、ウラン系列核種の年代決定を行う必要がある。海洋の試料で唯一この手法が適用可能なのがサンゴ骨格であり、これまでも盛んに研究が行われてきた。しかし、アラゴナイト骨格である造礁サンゴは続成作用の影響を受けやすいため、一般的に化石サンゴの場合採取した1%ほどしか使用できないという問題点があった。これに対してウッズホール/ラモントのグループは、年代の補正をすることでこれまで使われていなかったサンゴ試料も“復活させ”、年代を決定できるという提案を2005年にScience誌に行い、2006年にSPECMAPの年代校正を行った (Thompson & Goldstein 2006 QSR)。それらの論文はそれぞれ220回及び150回以上の引用がされ、特にアイスコアの古気候指標との対比などに使われている。
ところが大きな前提となっているウランとトリウムの同位体の動きについて、疑義が生じる結果が、造礁サンゴのウラン系列核種分析から出されてきた(例えば横山2004 地球化学)。それは過去60万年間一定と考えられていた海水のウラン同位体比が、氷期と間氷期において変化するというもので、それらは海水準変動に伴う沿岸域の酸化還元環境の変化によりもたらされているとするものである(Esat & Yokoyama, 2006, 2010 GCA)。しかし造礁サンゴであるために、続成作用による同位体比の変化ではないかという議論が残っていた。
近年、ウラン系列核種の分析に表面電離型質量分析装置の他に誘導プラズマ質量分析装置が用いられるようになり、深海サンゴの分析も盛んに行われるようになった。その結果、太平洋と大西洋のどちらの海盆から取られた深海サンゴにも、ウラン同位体比の初期値の変化が記録されており、表層のサンゴと一致した(Chen et al., 2016 Science)。つまり海水中のウラン同位体比が時間によらず一定であるという前提に基づいたオープンシステム法を用いた年代決定法が使用できないことを明確に示しており、氷期—間氷期の気候システムの連関性などについて、従来の年代測定法を適用する必要を示している(Yokoyama & Esat, 2016 Science)。これはアイスコアと海洋堆積物コアなどの古気候シグナルの前後関係について重要な知見であり、本発表にて紹介する予定である。今後東京大学大気海洋研究所で開発されたウラン系列核種の分析法を用いた多くのサンゴや鐘乳石試料の分析に適用することで、異なるサブシステム同士の気候変動の前後関係について明らかになることが期待される。
文献:Chen et al., 2016 Science 354, 626; Esat & Yokoyama, 2006, GCA 70, 4140; Esat & Yokoyama, 2010, GCA 74, 7008; Hirabayashi et al., 2017 JQS 32,1; Thompson & Goldstein 2006 QSR 25, 3207; Yokoyama & Esat, 2015 doi: 10.1002/9781118452547.ch7, p104-124.; Yokoyama & Esat, 2016 Science, 354, 550; Yokoyama et al., 2016 PNAS, 113, 2354.横山祐典2004 地球化学 38, 127.
全球氷床量、すなわち海水準変動を直接復元するのに有効な試料に造礁サンゴがある(Yokoyama & Esat, 2015 Willey Book)。放射性炭素の発見と加速器質量分析装置の導入により、過去5万年間の年代測定については、高精度で決定されるようになった。特に近年では、シングルステージ加速器質量分析装置という小型の装置も開発され、例えば東京大学大気海洋研究所では、0.1%という誤差での測定と、炭素量で100マイクログラム以下という微量での測定も可能になってきた(例:Yokoyama et al., 2016 PNAS; Hirabayashi et al., 2017 JQS)。
一方で5万年より古い年代については、ウラン系列核種の年代決定を行う必要がある。海洋の試料で唯一この手法が適用可能なのがサンゴ骨格であり、これまでも盛んに研究が行われてきた。しかし、アラゴナイト骨格である造礁サンゴは続成作用の影響を受けやすいため、一般的に化石サンゴの場合採取した1%ほどしか使用できないという問題点があった。これに対してウッズホール/ラモントのグループは、年代の補正をすることでこれまで使われていなかったサンゴ試料も“復活させ”、年代を決定できるという提案を2005年にScience誌に行い、2006年にSPECMAPの年代校正を行った (Thompson & Goldstein 2006 QSR)。それらの論文はそれぞれ220回及び150回以上の引用がされ、特にアイスコアの古気候指標との対比などに使われている。
ところが大きな前提となっているウランとトリウムの同位体の動きについて、疑義が生じる結果が、造礁サンゴのウラン系列核種分析から出されてきた(例えば横山2004 地球化学)。それは過去60万年間一定と考えられていた海水のウラン同位体比が、氷期と間氷期において変化するというもので、それらは海水準変動に伴う沿岸域の酸化還元環境の変化によりもたらされているとするものである(Esat & Yokoyama, 2006, 2010 GCA)。しかし造礁サンゴであるために、続成作用による同位体比の変化ではないかという議論が残っていた。
近年、ウラン系列核種の分析に表面電離型質量分析装置の他に誘導プラズマ質量分析装置が用いられるようになり、深海サンゴの分析も盛んに行われるようになった。その結果、太平洋と大西洋のどちらの海盆から取られた深海サンゴにも、ウラン同位体比の初期値の変化が記録されており、表層のサンゴと一致した(Chen et al., 2016 Science)。つまり海水中のウラン同位体比が時間によらず一定であるという前提に基づいたオープンシステム法を用いた年代決定法が使用できないことを明確に示しており、氷期—間氷期の気候システムの連関性などについて、従来の年代測定法を適用する必要を示している(Yokoyama & Esat, 2016 Science)。これはアイスコアと海洋堆積物コアなどの古気候シグナルの前後関係について重要な知見であり、本発表にて紹介する予定である。今後東京大学大気海洋研究所で開発されたウラン系列核種の分析法を用いた多くのサンゴや鐘乳石試料の分析に適用することで、異なるサブシステム同士の気候変動の前後関係について明らかになることが期待される。
文献:Chen et al., 2016 Science 354, 626; Esat & Yokoyama, 2006, GCA 70, 4140; Esat & Yokoyama, 2010, GCA 74, 7008; Hirabayashi et al., 2017 JQS 32,1; Thompson & Goldstein 2006 QSR 25, 3207; Yokoyama & Esat, 2015 doi: 10.1002/9781118452547.ch7, p104-124.; Yokoyama & Esat, 2016 Science, 354, 550; Yokoyama et al., 2016 PNAS, 113, 2354.横山祐典2004 地球化学 38, 127.