JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)

12:00 〜 12:15

[MIS23-30] 海洋無酸素イベントにおける基礎生産者の挙動

*田近 英一1小林 貴大2尾崎 和海3 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻、3.ジョージア工科大学 地球・大気科学部)

キーワード:海洋無酸素イベント、有光層ユーキシニア、バイオマーカー、海洋生物化学循環モデル

海洋無酸素イベントにおいては,シアノバクテリアや緑色硫黄細菌のバイオマーカーが発見されている.このことから,海洋が貧酸素化する過程において,海洋の生態系,とりわけ基礎生産を担う光合成生物種が入れ替わったことが示唆されている.シアノバクテリアの活動は海洋の有光層が窒素に枯渇したことを示唆し,緑色硫黄細菌の活動は有光層が硫化水素に富む状態(ユーキシニック)になったことを示唆する.しかし,そのような状況が生じる定量的な条件はまだよく分かっていない.
そこで,炭素・リン・窒素・硫黄循環を考慮した海洋表層生物化学循環モデルを用いて,有光層における必須元素(リン,窒素)の鉛直プロファイルの変化と,基礎生産者の挙動について調べた.その際,リンと窒素が十分にある好気的条件では真核藻類が基礎生産を担うが,窒素に枯渇した状況においては藻類は窒素制限となり窒素固定を行うことのできるシアノバクテリアが基礎生産を担うようになり,硫化水素に富む条件では硫化水素による成長阻害によって緑色硫黄細菌が基礎生産を担うものとした.また,海洋中深層水のリン酸濃度は,大陸の化学風化作用によって河川を通じて海洋に供給されるリン酸フラックスによって決まるものとし,全球平均気温の関数として与えた.基礎生産者の成長速度の温度依存性なども考慮した.
多数のパラメータスタディの結果,温暖化に伴って海洋は貧酸素化が急激に進行するとともに,脱窒が卓越して窒素に枯渇するようになり,シアノバクテリアの活動が顕著となる.さらに湧昇域においては,温暖化に伴ってユーキシニックな水塊が発生し有光層まで上昇することで,緑色硫黄細菌が活動することが示された.条件によっては藻類,シアノバクテリア,緑色硫黄細菌が有光層内で共存するなど,基礎生産者の興味深い挙動も明らかになった.