JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)

[MIS23-P10] インドネシア産チークを用いた年輪気候学における年輪幅測定法の比較

*新井 貴之1渡邊 裕美子1久持 亮1杉山 淳司2松尾 美幸3山本 浩之3津田 敏隆2田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学生存圏研究所、3.名古屋大学大学院生命農学研究科)

キーワード:年輪、古気候、年輪気候学、年輪年代学

樹木年輪は、樹木生長量と気候の関係性を議論する際に用いられてきた(Fritts 1976)。しかしながら、熱帯域では年輪を形成する樹種が少なく、熱帯域の樹木による古気候復元の例は多くない。その中でもチーク(Tectona grandis Linn. f.)は熱帯域で年輪を形成する数少ない樹種であるので、チークを用いた古気候復元の研究が進められてきた(例えばD’Arrigo et al. 1994)。しかし、チークは必ずしも同心円状に年輪を形成するとは限らないので、測定する場所および方法によって年輪幅が異なる。そのため、年輪生長量と気候の関係の議論に、年輪幅の測定方法が影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、インドネシアジャワ島東部Cepu産チーク3個体のディスクを使用し、チーク年輪に含まれる情報を用いた古気候復元の際に、年輪幅の測定方法の違いによって現れる影響を比較・検討した。今回は3種類の方法で年輪幅を測定または計算した。3種類の年輪幅測定法とは、「面積逆算法」、「曲線測線法」、および「直線測線法」である。「面積逆算法」は、1年分の年輪の外周および内周で囲まれた領域と同じ面積の円を考えたとき、前者の円の半径と後者の円の半径の差を年輪幅とみなす方法である。また「曲線測線法」は、樹木ディスク上の髄線(生長線)を測線として、その曲線に沿った各年輪の年輪幅を測定する方法である。さらに「直線測線法」は、ディスクの中心部から外側に直線を引き、その測線に沿った各年輪の年輪幅を測定する方法である。
まず、「面積逆算法」で年輪幅を計算し、その年輪幅を用いて比較年代測定(cross dating)をして各年輪の年代を決定した。次に「曲線測線法」で年輪幅を16本測定し、得られた各ディスク16通りの年輪幅経年変化データを指数化して、それぞれの年輪指数を作成した。その後、3個体の「曲線測線法」の年輪指数を用いて、年輪曲線を作成した。年輪曲線は、3個体それぞれの16通りの年輪指数から任意に1つ選び出し、それらを平均化したもの(163通り:以下「1測線」)と、任意に2つ選び出してそれらを平均化したもの((16C2)3通り:以下「2測線」)を作成した。「直線測線法」でも同様の方法で、年輪幅・年輪指数・年輪曲線を求めた。なおPoussart et al.(2004)では、チーク2個体それぞれで樹木の外側から中心へ1本コアをくり抜き、それを用いて年輪幅を測定している。これは、本研究では「直線測線法」の「1測線」に該当する。またSchollaen et al.(2013)では、チーク16個体それぞれで樹木の外側から中心へ2本コアをくり抜き、それを用いて測定した2つの年輪幅を平均化したものを年輪幅としている。これは、本研究では「直線測線法」の「2測線」に該当する。
「面積逆算法」で求めた年輪幅は、二次元的な樹木生長量から求めた年輪幅であることから、一次元的な樹木生長量を求めた「曲線測線法」・「直線測線法」より、より樹木生長量を反映したものであると言える。すなわち、「面積逆算法」の年輪曲線と各種気象データの相関解析結果に、「曲線測線法」・「曲線測線法」の年輪曲線を用いた時の結果がどれだけ近づくのかを確認する必要がある。そこで、複数の方法で得られた多数の年輪曲線と、各種気象データ(降水量・SOI・DMI)との相関解析をそれぞれの場合で行い、それらの結果を比較した。また、先行研究において示されているチーク年輪幅と気象現象の関係性(例えばSchollaen et al. (2013)など)と整合的結果の再現度合いも確認した。
Jacoby and D’Arrigo(1990)では、年輪曲線と生長期直前乾季降水量との間で正相関が示されている。本研究でも「面積逆算法」で正相関(p<0.001)が確認された。「曲線測線法」では、「1測線」では全163通り中96.3%で、「2測線」では全(16C2)3通り中99.9%でp<0.05の正相関が確認された。一方「直線測線法」では、「1測線」では44.0%のみで、「2測線」では57.8%のみでp<0.05の正相関が確認された。
また、本研究では「面積逆算法」の年輪曲線と生長期直前乾季DMIとの間で負相関(p<0.01)が確認された。「曲線測線法」では、「1測線」では84.8%で、「2測線」では95.5%でp<0.05の正相関が確認された。一方「直線測線法」では、「1測線」では13.0%でしか、「2測線」では10.2%でしかp<0.05の正相関が確認されなかった。
以上より、「直線測線法」の「1測線」や「2測線」の年輪幅測定法では、年輪幅に含まれる情報を十分に読み取れない可能性があること、「面積逆算法」の年輪幅が3つの方法のうちで古気候復元に最も有効であること、および「直線測線法」の年輪幅より「曲線測線法」の年輪幅のほうが古気候復元のための情報が大きいことが確認された。今後は、より個体数を増やした測線法の更なる分析が求められるだろう。