JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)

[MIS23-P13] 大雪山地域の高層湿原泥炭の鉱物組成に基づく完新世における黄砂供給量の変動

*入野 智久1平井 啓介2関 宰3Hooper James4Marx Samuel4 (1.北海道大学 大学院地球環境科学研究院、2.北海道大学 理学部、3.北海道大学 低温科学研究所、4.ウーロンゴン大学)

キーワード:風成塵、泥炭、完新世、大雪山

黄砂の大気輸送に関しては、西南日本を中心として輸送される場合と、北日本に輸送される場合とでは、その供給源が異なっている可能性が従来指摘されている。しかしながら、研究は本州以南の地域に集中しており、北日本における黄砂の研究は未だ不十分である。黄砂の北側輸送経路にある大雪山地域には、毎年春になると雪を茶色に染めるほどの黄砂が降下することが知られており、露岩地域には火山岩や火山灰物質が分布している。これまでの研究により、大雪山高層湿原は約4000 - 7500年前に形成され、現在に至るまでの環境変化が連続的に記録されていることがわかっている。また、大雪山高層湿原を作っている泥炭は、過去の植物遺骸の集積であるため、炭素14法による精密な年代決定が容易であるばかりでなく、そこに含まれる無機成分は黄砂および大雪山起源火山灰のみからなると考えられる。そのため、高緯度域を大気輸送されて地上に堆積する物質供給を評価しようとしたとき、大雪山地域は最適な研究サイトである。

そこで本研究では、大雪山高層湿原に分布する泥炭を採取し、そこに含まれる鉱物組成を分析することにより、過去数千年間の北日本における黄砂供給パターンの変動を復元することを目的とする。大雪山泥炭コアを粉末X線回折法で鉱物組成の半定量をしたところ、石英、イライト、クロライトは正相関し、長石類のピークはそれらとは独立に互いに正相関した。ガラス質物質量の変動はさらに石英や長石の変動パターンとは異なっていた.そして、灰分率がスパイク的に高いところは比較的長石、或いはガラスが多かった。これらの結果と、大雪山に降下した黄砂、及び現地の河床砂を鉱物組成の比較から、泥炭コアの鉱物組成は、黄砂由来のもの、地域の火山岩物質由来の鉱物質のもの、および非晶質のものの3つの端成分の混合で近似できることが分かった。

灰分率と各泥炭コアサンプルへの黄砂由来物質の寄与率から、泥炭1 g中の黄砂重量の平均は89.7 mgと求められた。また、先行研究(高橋・五十嵐,1985)の通り採取した泥炭の最下部が7500年前程度であり、かつ泥炭の乾燥かさ密度を約0.1 g/cm3と仮定して求められた黄砂フラックスは、平均で0.14 mg/cm2/yrとなった。この値は、これまでの観測などから得られた現世日本付近の黄砂フラックス0.2 - 4.5 mg/cm2/yrと比較して概ね適当な値である。黄砂フラックスの時代変化は、済州島で推定されている黄砂フラックス (Li and Matsumoto, 2007) の変化とは逆相関を示しているように見え、これは、黄砂を運ぶ偏西風ジェットの蛇行パターンに応じて、南に運搬されやすい時期と北に運搬されやすい時期が交代するからかもしれない。