JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)

[MIS23-P31] 最終氷期最寒期における黒潮蛇行に関する数値実験

*杉山 禎実1池原 実2中村 啓彦3 (1.高知大学院総合人間自然科学研究科理学専攻、2.高知大学海洋コア総合研究センター、3.鹿児島大学水産学部海洋環境グループ)

キーワード:黒潮、古海洋、古気候

黒潮は北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流であり,熱帯から亜寒帯へ熱エネルギーを輸送する媒体として東アジアの気候に大きな影響を与えている. また黒潮の特徴として,世界の海流のなかでもその流量は大きく,輸送するのは熱量だけでなく栄養塩などの化学物質や魚の卵・稚仔魚やプランクトンなどの生物といった物質量も多い. そのため黒潮は,流域周辺地域だけでなく北太平洋の気候変動や地球環境にも大きな影響を与えている. 現在,氷期-間氷期サイクルでの黒潮の変動については,琉球列島周辺および日本列島南岸沖から採取された海底堆積物(コア)やセディメントトラップの有機地球化学的分析など,プロキシーを用いて海洋表層環境を復元する手法が主流である. しかし,海洋物理学的側面から再現する研究はほとんどない.また,有孔虫化石の群集解析や安定酸素同位体比分析から最終氷期最寒期(LGM)の黒潮流路の復元を行ったUjiie and Ujiie (1999),および,Ujiie et al. (2003)の研究と,沖縄トラフ北部のコアより花粉解析を行ったKawahata et al. (2003)では黒潮復元に関する解釈が異なる. そのため, プロキシーを用いた従来の地球科学的アプローチによる黒潮復元だけでは不十分だと言える。そこで本研究では,モデルを用いた数値実験における海洋物理学的アプローチをおこなう. 海水準変動が黒潮にどのような影響を与えるのかモデルにより再現し, そのメカニズムを解明することを目的とした.
本研究の数値実験では三次元海洋大循環モデル(Princeton Ocean Model: POM)を用いた. 海水準変動実験として,現在の海水準(0m)・-40m・-80m・-120m・-200mの5ケースを行った. 計算範囲は北太平洋北西部(5°N-55°N, 120°E-170°E)とし,水平方向の最高解像度は1.3/10°,緯度方向で約14.5kmである.
計算結果より以下のことが示唆された. 海水準が現在より120m低下した場合でも,沖縄トラフ周辺の黒潮流路は大きく変わらず,黒潮は台湾-与那国島間から沖縄トラフに流入し, トカラ海峡から太平洋側へと流出する流路を示した. 一方,海水準が低下することで四国海盆内に大規模な暖水渦と冷水渦が頻繁に形成され,かつ南下する傾向を示した. また実験結果の日経過を観察すると,比較的早い段階で黒潮が直進モードから大蛇行モードに移行する. これは,海水準が低下することで九州―パラオ海嶺と伊豆小笠原島弧に囲まれる四国海盆の地形的閉鎖性が強化され,通り道を制限された大量の海水が四国海盆内で循環するためと考えられる.また,四国沖暖水渦と冷水渦,黒潮大蛇行形成に影響を与えると考えられている膠州海山と第二紀南海山(西村ほか,2001, 川辺,2003)の影響力も現在より強かったのではないかと考察できる.   
以上の計算結果と考察より,海水準が現在よりも低下していたLGMには,四国海盆周辺では大規模渦が頻繁に形成され,その影響で黒潮は現在よりも大蛇行流路をとりやすかったと解釈される.今後の課題として,この解釈(仮説)を地質学的に検証するために,大規模渦が形成されていた四国海盆を中心として採取された海洋コア(KT07-11 EOS1PC・KH04-2KPR-3PCなど)を用いて,LGMにおける水温の水平・鉛直分布を復元することが重要である.