15:30 〜 15:45
[MIS24-01] 「ちきゅう」&DONET のトータル観測ステー ション計画:海底~大気の同時貫通観測
キーワード:沈み込み帯、海溝型巨大地震、海洋変動
1.はじめに
南海トラフ沿いで発生する ”ゆっくり地震” [1] の一種である超低周波地震は,地震発生帯の深部側遷移域に位置する30kmの等深線上に沿って分布しており,その震源が走行方向に移動する現象が陸上の稠密観測網から捉えられている [2].
この”ゆっくり地震”は,地震発生帯の浅部側の遷移域でも起きると考えられていたが [3],最近になって,東北沖でも見出された [4].
本講演では,海溝型巨大地震サイクルとゆっくり地震活動の変化について,海溝型巨大地震サイクルの数値シミュレーションから検証した概要について述べる.その結果に基づいて,東北地方太平洋沖地震と東南海地震の震源域周辺で敷設が展開されている海底圧力計に着目し,その解析データを用いた検知手法と課題について議論する.
2.東北沖の浅部ゆっくり地震から見出されたプレート間固着の特徴
Ariyoshi et al. [5] は,東北沖の海溝に近い浅部側にも超低周波地震が局所的に発生していることに着目し,プレート境界面上に速度/状態依存摩擦構成則 [6] を適用した数値シミュレーションに基づいて,浅部超低周波地震の活動とプレート間固着との関係を調べ,その結果を東北地方太平洋沖地震へ適用することを試みた.その結果,以下の見解を示した.
(1) 岩手沖・茨城沖・福島沖は,東北地方太平洋沖地震の震源域外縁部に位置し,巨大地震に伴う余効すべりによって浅部超低周波地震が活発化したと考えられる.
(2) 宮城沖は,東北地方太平洋沖地震の震源域外縁部に位置し,地震直後から強い固着が近傍で生じるため,浅部側において浅部ゆっくり地震の活動が静穏化する.
(3) 宮城沖での浅部超低周波地震活動の静穏期間が数十年以上続くことになれば,近傍でのプレート間固着が百年以上耐えられる可能性を示唆する証拠となり得る.
3.浅部ゆっくり地震活動に基づく南海トラフのモニタリング
2章で述べた浅部ゆっくり地震活動に基づくプレート間固着の推定を,南海トラフにも適用した.その結果,現在の固着状況について以下の2つを推定した.
(4) 超低周波地震が三河沖で不活発,熊野沖で活発となっているのは,東南海地震震源域の中央部と西縁部に位置しているためだと考えられる.
(5) 豊橋沖で不活発となっているのは,東海・東南海地震のセグメント間で固着が強いことを示唆する.この考えは,東海地震がこれまで単独で発生していない事実とも整合的である.
この推定を多角的に検討するためには,超低周波地震活動のみならず,それに伴う海底地殻変動も検出する必要がある.Ariyoshi et al. [7] では,浅部超低周波地震に伴ってDONET観測点で期待される上下変動について,数値シミュレーションから試算した.
その結果,DONET観測点は浅部超低周波地震の震源域から近いため,同一ノード内で上下変動のセンスが異なる.そこで,同一ノード内の平均値を取り除くことによって,海洋変動成分を除去したかたちで地殻変動成分を抽出する手法の有効性を示したが,精度を高めるためには,海流変動やドリフト成分などの寄与を観測点ごとに算出する必要がある.
このような経緯から我々は,「ちきゅう」を使った孔内観測点とDONETの接続作業時やDONET地震計の埋設時などのタイミングを狙って,海底から大気までの同時観測という着想に至り,現在,既存データの解析を進めている.
参考文献: [1] S. Ide et al., Nature 447, 76-79 (2007). [2] K. Obara & S. Sekine, Earth Planets Space 61, 853-862 (2009). [3] S.Y. Schwartz & J.M. Rokosky, Rev. Geophys. 45, RC3004 (2007). [4] T. Matsuzawa et al., Geophys. Res. Lett., 42, 4318-4325 (2015). [5] K. Ariyoshi et al., Earth Planets Space 66(55) (2014). [6] A. Ruina, J. Geophys. Res. 88, 10359-10370 (1983). [7] K. Ariyoshi et al. Mar Geophys. Res., 35(3), 295-310 (2014).
南海トラフ沿いで発生する ”ゆっくり地震” [1] の一種である超低周波地震は,地震発生帯の深部側遷移域に位置する30kmの等深線上に沿って分布しており,その震源が走行方向に移動する現象が陸上の稠密観測網から捉えられている [2].
この”ゆっくり地震”は,地震発生帯の浅部側の遷移域でも起きると考えられていたが [3],最近になって,東北沖でも見出された [4].
本講演では,海溝型巨大地震サイクルとゆっくり地震活動の変化について,海溝型巨大地震サイクルの数値シミュレーションから検証した概要について述べる.その結果に基づいて,東北地方太平洋沖地震と東南海地震の震源域周辺で敷設が展開されている海底圧力計に着目し,その解析データを用いた検知手法と課題について議論する.
2.東北沖の浅部ゆっくり地震から見出されたプレート間固着の特徴
Ariyoshi et al. [5] は,東北沖の海溝に近い浅部側にも超低周波地震が局所的に発生していることに着目し,プレート境界面上に速度/状態依存摩擦構成則 [6] を適用した数値シミュレーションに基づいて,浅部超低周波地震の活動とプレート間固着との関係を調べ,その結果を東北地方太平洋沖地震へ適用することを試みた.その結果,以下の見解を示した.
(1) 岩手沖・茨城沖・福島沖は,東北地方太平洋沖地震の震源域外縁部に位置し,巨大地震に伴う余効すべりによって浅部超低周波地震が活発化したと考えられる.
(2) 宮城沖は,東北地方太平洋沖地震の震源域外縁部に位置し,地震直後から強い固着が近傍で生じるため,浅部側において浅部ゆっくり地震の活動が静穏化する.
(3) 宮城沖での浅部超低周波地震活動の静穏期間が数十年以上続くことになれば,近傍でのプレート間固着が百年以上耐えられる可能性を示唆する証拠となり得る.
3.浅部ゆっくり地震活動に基づく南海トラフのモニタリング
2章で述べた浅部ゆっくり地震活動に基づくプレート間固着の推定を,南海トラフにも適用した.その結果,現在の固着状況について以下の2つを推定した.
(4) 超低周波地震が三河沖で不活発,熊野沖で活発となっているのは,東南海地震震源域の中央部と西縁部に位置しているためだと考えられる.
(5) 豊橋沖で不活発となっているのは,東海・東南海地震のセグメント間で固着が強いことを示唆する.この考えは,東海地震がこれまで単独で発生していない事実とも整合的である.
この推定を多角的に検討するためには,超低周波地震活動のみならず,それに伴う海底地殻変動も検出する必要がある.Ariyoshi et al. [7] では,浅部超低周波地震に伴ってDONET観測点で期待される上下変動について,数値シミュレーションから試算した.
その結果,DONET観測点は浅部超低周波地震の震源域から近いため,同一ノード内で上下変動のセンスが異なる.そこで,同一ノード内の平均値を取り除くことによって,海洋変動成分を除去したかたちで地殻変動成分を抽出する手法の有効性を示したが,精度を高めるためには,海流変動やドリフト成分などの寄与を観測点ごとに算出する必要がある.
このような経緯から我々は,「ちきゅう」を使った孔内観測点とDONETの接続作業時やDONET地震計の埋設時などのタイミングを狙って,海底から大気までの同時観測という着想に至り,現在,既存データの解析を進めている.
参考文献: [1] S. Ide et al., Nature 447, 76-79 (2007). [2] K. Obara & S. Sekine, Earth Planets Space 61, 853-862 (2009). [3] S.Y. Schwartz & J.M. Rokosky, Rev. Geophys. 45, RC3004 (2007). [4] T. Matsuzawa et al., Geophys. Res. Lett., 42, 4318-4325 (2015). [5] K. Ariyoshi et al., Earth Planets Space 66(55) (2014). [6] A. Ruina, J. Geophys. Res. 88, 10359-10370 (1983). [7] K. Ariyoshi et al. Mar Geophys. Res., 35(3), 295-310 (2014).