16:30 〜 16:45
[MIS24-05] 地球深部探査船「ちきゅう」のための海流予測
キーワード:海流予測、ちきゅう、黒潮
1.はじめに
海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」は、巨大地震発生域への大深度掘削を可能にする世界初のライザー式科学掘削船である。「ちきゅう」は、国際深海科学掘削計画(IODP)の主力船として地球探査を行っている。掘削を行うには、「ちきゅう」は海に対して静止する必要がある。しかしながら、「ちきゅう」が日本周辺で掘削を行う場所は黒潮流域付近であることが多く、流速の大きな変動は掘削作業の脅威となる。そこで、2016年に行われた3航海を対象として、航海中に海洋モデルによる海流予測を行った。本講演では、航海中にみられた海洋現象、「ちきゅう」の海洋観測プラットフォームとしての可能性、海流予測の現状と課題について議論する。
2.対象航海
海流予測の対象は、[航海1] 熊野灘でのIODP第365次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画(3月26日~4月27日)、[航海2] 室戸沖のIODP第370次研究航海「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」(9月10日~11月10日)、[航海3] 沖縄本島北西の「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲ」(11月16日~12月15日)、の3航海である。「ちきゅう」は海面から1000m以深まで海流を観測している。風速・風向等の気象要素の観測も行っている。また、航海中には「ちきゅう」支援を目的とした船が参加しており、その流速観測により、「ちきゅう」周囲の海流の状態を知ることができる。
3.海流予測モデル
それぞれの海域で重要と考えられる現象に対処するために、航海ごとに異なる予測モデルを選択した。黒潮の影響が強い熊野灘域での航海1では、黒潮変動の誤差が大きな流速の変化にあらわれることから、ensemble Kalman filterをデータ同化に用いた新開発のアンサンブル予測KFSJ (ensemble Kalman Filter for South of Japan, Miyazawa et al. 2012)を投入した。一方、黒潮からはやや離れた航海2では、風などによる短周期の変動が相対的に重要になると予想されたことから、短周期変動の取り扱いに特長のある予測モデルJCOPE-T (Varlamov et al. 2015)の2種類を使用した。同じく、黒潮からやや遠く、潮汐の影響も重要になる東シナ海で行われた航海3では、潮汐も計算し、対象海域を計算範囲に含むJCOPE-Tの一つを使用した。
4.結果
航海の行われた海域ごとに特徴的な海洋現象が見られた。航海1では、黒潮フロントの変動による大きな流速の変動が見られた。KFSJでもそのような傾向が捉えられた。残念ながら流速の変動の大きさの予測には課題が残ったが、モデルの予測を実際の現象と比較しながら検証できた意義は大きい。航海2では、黒潮から離れ全体的に流速が小さい中、短周期の流速変動が見られた。特に、台風16号が近くを通過した時には、風の影響による慣性重力波の流速変動が捉えられた。航海3では、潮汐の影響とみられる約半日周期の変動が見られた。航海1と2に関しては、航海中にリアルタイムに観測と予測の報告を行っており、以下のURLを参照されたい。
http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/kowatch/?tag=ちきゅう
References
Miyazawa Y, Miyama T, Varlamov SM, Guo X, Waseda T (2012) Open and coastal seas interactions south of Japan represented by an ensemble Kalman filter Ocean Dynamics 62:645-659 doi:10.1007/s10236-011-0516-2
Varlamov SM, Guo X, Miyama T, Ichikawa K, Waseda T, Miyazawa Y (2015) M-2 baroclinic tide variability modulated by the ocean circulation south of Japan J Geophys Res-Oceans 120:3681-3710 doi:10.1002/2015jc010739
海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」は、巨大地震発生域への大深度掘削を可能にする世界初のライザー式科学掘削船である。「ちきゅう」は、国際深海科学掘削計画(IODP)の主力船として地球探査を行っている。掘削を行うには、「ちきゅう」は海に対して静止する必要がある。しかしながら、「ちきゅう」が日本周辺で掘削を行う場所は黒潮流域付近であることが多く、流速の大きな変動は掘削作業の脅威となる。そこで、2016年に行われた3航海を対象として、航海中に海洋モデルによる海流予測を行った。本講演では、航海中にみられた海洋現象、「ちきゅう」の海洋観測プラットフォームとしての可能性、海流予測の現状と課題について議論する。
2.対象航海
海流予測の対象は、[航海1] 熊野灘でのIODP第365次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画(3月26日~4月27日)、[航海2] 室戸沖のIODP第370次研究航海「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」(9月10日~11月10日)、[航海3] 沖縄本島北西の「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲ」(11月16日~12月15日)、の3航海である。「ちきゅう」は海面から1000m以深まで海流を観測している。風速・風向等の気象要素の観測も行っている。また、航海中には「ちきゅう」支援を目的とした船が参加しており、その流速観測により、「ちきゅう」周囲の海流の状態を知ることができる。
3.海流予測モデル
それぞれの海域で重要と考えられる現象に対処するために、航海ごとに異なる予測モデルを選択した。黒潮の影響が強い熊野灘域での航海1では、黒潮変動の誤差が大きな流速の変化にあらわれることから、ensemble Kalman filterをデータ同化に用いた新開発のアンサンブル予測KFSJ (ensemble Kalman Filter for South of Japan, Miyazawa et al. 2012)を投入した。一方、黒潮からはやや離れた航海2では、風などによる短周期の変動が相対的に重要になると予想されたことから、短周期変動の取り扱いに特長のある予測モデルJCOPE-T (Varlamov et al. 2015)の2種類を使用した。同じく、黒潮からやや遠く、潮汐の影響も重要になる東シナ海で行われた航海3では、潮汐も計算し、対象海域を計算範囲に含むJCOPE-Tの一つを使用した。
4.結果
航海の行われた海域ごとに特徴的な海洋現象が見られた。航海1では、黒潮フロントの変動による大きな流速の変動が見られた。KFSJでもそのような傾向が捉えられた。残念ながら流速の変動の大きさの予測には課題が残ったが、モデルの予測を実際の現象と比較しながら検証できた意義は大きい。航海2では、黒潮から離れ全体的に流速が小さい中、短周期の流速変動が見られた。特に、台風16号が近くを通過した時には、風の影響による慣性重力波の流速変動が捉えられた。航海3では、潮汐の影響とみられる約半日周期の変動が見られた。航海1と2に関しては、航海中にリアルタイムに観測と予測の報告を行っており、以下のURLを参照されたい。
http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/kowatch/?tag=ちきゅう
References
Miyazawa Y, Miyama T, Varlamov SM, Guo X, Waseda T (2012) Open and coastal seas interactions south of Japan represented by an ensemble Kalman filter Ocean Dynamics 62:645-659 doi:10.1007/s10236-011-0516-2
Varlamov SM, Guo X, Miyama T, Ichikawa K, Waseda T, Miyazawa Y (2015) M-2 baroclinic tide variability modulated by the ocean circulation south of Japan J Geophys Res-Oceans 120:3681-3710 doi:10.1002/2015jc010739