11:45 〜 12:00
[MZZ41-05] 熊本地震が示した個人世帯を対象とした人的被害評価の重要性
★招待講演
キーワード:熊本地震、人的被害、リスク評価
1.目的
2016年4月14日に始まった熊本地震の一連の活動は16日に本震を伴い周辺地域に甚大な被害を生じた。特に、熊本県益城町においては、14日(以降、前震)と16日(以降、本震)に2度にわたり震度7を観測し、前震で7人その後の本震で12人の命が建物倒壊に伴い失われた。これらの人々は、前震後の長期の避難生活を避け自宅に戻ってしまったことが死亡につながった一方で、前震の発生が避難を誘発し本震時に死を免れたケースも多かったことがわかっている1)。このように、地震後の長期避難は熊本地震のような連続して強震動が発生するような地震活動に対し、一定の死者低減効果を発揮する。しかし一般的には、長期の避難生活を望む被災者は稀であり、時間経過と共に自宅への帰還率が増加する。そのため、被災後にあっては避難の必要性を世帯単位で認識できるリスク情報を提供できれば、我が事としてのより強い注意喚起となり得る。現状では「建物の応急危険度判定」が相当の情報となるが、建物の状態のみを3段階で伝えるのみであり、その後の余震(あるいは本震)に対する身の危険の程度が自分自身では判断できない。本研究は、以上の現状認識のもと個人世帯を対象とした人的被害予測式を適用することで、被震後の自宅からの避難の意思決定を支援するリスク情報提供可能性を検討するものである。
2.人的被害評価
個人世帯の死者発生リスクは、地震動入力と各家屋の築年代もしくは耐震評点を既知とする建物損傷度関数を用い建物の被害程度を損傷度で評価し2)、損傷度に伴う室内残存空間に関するW値関数を用い、構造部材が在宅者に衝突する確率と年齢を考慮したけがの程度(ISS)ごとの死亡率を人体損傷度関数3)を用いることで評価できる。
3.世帯の死亡リスク評価
上記手法を用い熊本地震の死者が発生した17世帯について前震・本震の死亡率を評価する。ここでは、死亡者が発生した世帯の1例をあげる。住宅は1970年代築とし地震時には3名が在宅しており、70代の3名が1階に在室していた。前震時の震度を6.49と本震の震度を6.77とすると、木造住宅の損傷度別発生確率はD4で12%、D5で6%、D6で1%となり、本震時にはD4で16%、D5で19%、D6で12%となる。前震で被災した建物の耐震性能(耐震評点)が低下していたこととも絡み、本震時に急激に全壊以上(特にD5、D6などの層崩壊)の建物発生率が増加していることが推測される。また、在宅者1名あたりの死者発生確率は前震時1%、本震時5%と増大している。仮にこの建物が1950年代に建てられたと仮定した場合、死者発生確率は前震時4%、本震時12%と住まう建物により死亡率は大きく増減する。また、同様の住宅に40代が3名住んでいると仮定した場合、死者発生確率は1%、本震時には8%となり70代が在宅している場合に比べ死亡率が低い。このように、震度が同じでも耐震性能や世帯の年齢構成により死亡率が異なる。地震の前に世帯ごとのリスク評価を実施し現状を知っておくことが重要となろう。
4.おわりに
本手法により得られた世帯ごとの死亡リスクは、事前対策の実施や被災時の避難実施の有無を検討するうえで有用な情報となるであろう。
1)中嶋唯貴・岡田成幸:平成28年熊本地震における前震の発生が本震時の人的被害に与えた影響, 日本地震学会秋季大会講演予稿集 巻:2016 ページ:31
2)中嶋唯貴・岡田成幸:時間軸上の死者低減率最大化を主目標とした木造住宅耐震化戦略の策定 -東海・東南海連動型地震を対象とした東海4県への適用事例-, 日本建築学会構造系論文集, 623, 79-86, 2008
3) Shigeyuki OKADA, Tadayoshi NAKASHIMA, et al: A NEW CAUSALITY MODEL FOR EVALUATING THE PROBABIITY OF HUMAN DAMAGE FROM INJURY TO DEATH IN COLLAPSED BUILDINGS, Proceeding of 16th World Conference on Earthquake Engineering, PP.1-8, 2017.
2016年4月14日に始まった熊本地震の一連の活動は16日に本震を伴い周辺地域に甚大な被害を生じた。特に、熊本県益城町においては、14日(以降、前震)と16日(以降、本震)に2度にわたり震度7を観測し、前震で7人その後の本震で12人の命が建物倒壊に伴い失われた。これらの人々は、前震後の長期の避難生活を避け自宅に戻ってしまったことが死亡につながった一方で、前震の発生が避難を誘発し本震時に死を免れたケースも多かったことがわかっている1)。このように、地震後の長期避難は熊本地震のような連続して強震動が発生するような地震活動に対し、一定の死者低減効果を発揮する。しかし一般的には、長期の避難生活を望む被災者は稀であり、時間経過と共に自宅への帰還率が増加する。そのため、被災後にあっては避難の必要性を世帯単位で認識できるリスク情報を提供できれば、我が事としてのより強い注意喚起となり得る。現状では「建物の応急危険度判定」が相当の情報となるが、建物の状態のみを3段階で伝えるのみであり、その後の余震(あるいは本震)に対する身の危険の程度が自分自身では判断できない。本研究は、以上の現状認識のもと個人世帯を対象とした人的被害予測式を適用することで、被震後の自宅からの避難の意思決定を支援するリスク情報提供可能性を検討するものである。
2.人的被害評価
個人世帯の死者発生リスクは、地震動入力と各家屋の築年代もしくは耐震評点を既知とする建物損傷度関数を用い建物の被害程度を損傷度で評価し2)、損傷度に伴う室内残存空間に関するW値関数を用い、構造部材が在宅者に衝突する確率と年齢を考慮したけがの程度(ISS)ごとの死亡率を人体損傷度関数3)を用いることで評価できる。
3.世帯の死亡リスク評価
上記手法を用い熊本地震の死者が発生した17世帯について前震・本震の死亡率を評価する。ここでは、死亡者が発生した世帯の1例をあげる。住宅は1970年代築とし地震時には3名が在宅しており、70代の3名が1階に在室していた。前震時の震度を6.49と本震の震度を6.77とすると、木造住宅の損傷度別発生確率はD4で12%、D5で6%、D6で1%となり、本震時にはD4で16%、D5で19%、D6で12%となる。前震で被災した建物の耐震性能(耐震評点)が低下していたこととも絡み、本震時に急激に全壊以上(特にD5、D6などの層崩壊)の建物発生率が増加していることが推測される。また、在宅者1名あたりの死者発生確率は前震時1%、本震時5%と増大している。仮にこの建物が1950年代に建てられたと仮定した場合、死者発生確率は前震時4%、本震時12%と住まう建物により死亡率は大きく増減する。また、同様の住宅に40代が3名住んでいると仮定した場合、死者発生確率は1%、本震時には8%となり70代が在宅している場合に比べ死亡率が低い。このように、震度が同じでも耐震性能や世帯の年齢構成により死亡率が異なる。地震の前に世帯ごとのリスク評価を実施し現状を知っておくことが重要となろう。
4.おわりに
本手法により得られた世帯ごとの死亡リスクは、事前対策の実施や被災時の避難実施の有無を検討するうえで有用な情報となるであろう。
1)中嶋唯貴・岡田成幸:平成28年熊本地震における前震の発生が本震時の人的被害に与えた影響, 日本地震学会秋季大会講演予稿集 巻:2016 ページ:31
2)中嶋唯貴・岡田成幸:時間軸上の死者低減率最大化を主目標とした木造住宅耐震化戦略の策定 -東海・東南海連動型地震を対象とした東海4県への適用事例-, 日本建築学会構造系論文集, 623, 79-86, 2008
3) Shigeyuki OKADA, Tadayoshi NAKASHIMA, et al: A NEW CAUSALITY MODEL FOR EVALUATING THE PROBABIITY OF HUMAN DAMAGE FROM INJURY TO DEATH IN COLLAPSED BUILDINGS, Proceeding of 16th World Conference on Earthquake Engineering, PP.1-8, 2017.