JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ42] [JJ] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:矢島 道子(日本大学文理学部)、山田 俊弘(東京大学大学院教育学研究科研究員)、青木 滋之(会津大学コンピュータ理工学部)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:山田 俊弘(東京大学大学院教育学研究科研究員)、座長:矢島 道子(日本大学文理学部)

09:00 〜 09:15

[MZZ42-01] 17世紀地球論における地球史の枠組みとその含意

*山田 俊弘1 (1.東京大学大学院教育学研究科研究員)

キーワード:地球史、ステノの遺産、ゴットフリート・ライプニッツ、ジョヴァンニ・アルドゥイノ、地質学史

『ジオコスモスの変容』という本を出版した(山田 2017).これは2004年の博士論文を改稿したもので内容に大きな変化はないが,後継研究を検討するなかで,当時は気づかなかった17世紀地球論のもつ意味が見えてきたところがある.以前にデカルトによるモデルの「発明」と地理学の役割について検討したが(山田 2010),本発表では地球の歴史を記述する枠組みの生成とそれがその後の地質学の形成で果たした役割を考察してみたい.

デカルトの『哲学原理』(1644)は粒子論に基づくコスモゴニー(宇宙生成論)を視覚化してモデルを示し,層状地球の生成を説明した.だがそこには化石の解釈がなく,結果として地球の歴史記述とはなっていなかった.一方でステノは,代表作『固体のなかの固体』(1669)で,地層とそのなかに含まれる化石のような物体の研究から地域における自然の歴史を復元し,地球の歴史を議論する方法を明示した.彼は地形発達史を示し,山地・丘陵・低地をつくる3種類の岩塊を示唆した.

これは地球史研究のパラダイムとなり,18世紀のイタリアの学者たちはこれを「ステノの遺産 Stenonian heritage」として継承する.たとえば,アルドゥイノはイタリアの地層研究から,山地の岩塊で含化石層を分離し,低地を第4番目の「洪水による per alluvioni」堆積物とした.「第四紀」の用語こそないがここに地質時代の大区分ができた (Vaccari 2006).

そしてライプニッツの『プロトガイア』(c.1691, 1749)である.そこでは地表の岩石に記録の残る時代に先んじる「地球の幼年期 incunabula nostri orbis」が設定され,原始地球と地質時代が区別された.さらに地層中の植物化石から自然環境の変化が示唆される.ライプニッツにとっては,自然の歴史が人間の歴史を補うのである(山田 2017, 第8章).

こうして,長大な「深淵なる時間 deep time」概念はいまだ現れていないが,人類史とその自然環境の問題を含めて,基本的な地球史の時間枠組みが17世紀終わりには出現していたことが認められる.

文献
Vaccari, Ezio, “The “classification” of mountains in eighteenth century Italy and the lithostratigraphic theory of Giovanni Arduino (1714-1795),” Geological Society of America Special Paper 411 (2006), 156-177.
山田俊弘「17世紀地球論再考――デカルトによる「発明」と地理学の改鋳」日本地球惑星科学連合大会アブストラクト(幕張メッセ,2010年),GHE030-01.
山田俊弘『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』(勁草書房,2017年).