JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ42] [JJ] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:矢島 道子(日本大学文理学部)、山田 俊弘(東京大学大学院教育学研究科研究員)、青木 滋之(会津大学コンピュータ理工学部)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

[MZZ42-P03] 地球惑星科学の科学史・科学論・科学技術社会論の果たす機能に関する提案

*熊澤 峰夫1丸山 茂徳2 (1.名古屋大学理学部、2.東京工業大学)

いわゆる「地学」は時代の推移に応じて逐次変貌してきて、その変遷速度は質と量ともども、特に昨今著しく大きくなったようにみえる。「全地球史解読」の研究計画(1995~97)において、「人類が科学を始め、地球・宇宙の歴史と摂理を探り始めたこと」を、解明すべき「地球史上の第7大事件」と位置付けた(熊澤他 2002)。これは当時、かなり過激な考えに見えたが、~20年後の現在、惑星探査から資源環境問題にも密着し、基礎でも、丸山が牽引したWPIの地球生命研究所が活動をはじめ、従来の想定をはるかに超えた状況変化が起っている。
このような状況で、地球惑星科学の分野においても、「経験に学ぶ科学史」、「科学の動態理解を志向する科学基礎論」、さらにわれわれの生存に関わる「STS」研究の質的・量的な機能への要請など、質と量の向上に向けた強い社会的要請から逃れられない。第2次世界大戦後の科学論は社会の大きな変動を反映して、政治的にも非常に激しいdebateの場があった。日本の地球科学の課題を振り返ると、欧米からの翻訳受容から、植民地経営や資源開発の経験をへて、戦後の思想的社会的混乱と復旧回復、さらに環境科学という側面からの科学と社会の関系の見直し、地球惑星科学分野の統合による学界再編が進んできた。
2008年の都城秋穗の死去をきっかけとして、その科学論的な仕事の見直しに着手した(丸山他編 2009)。さらに、地球惑星科学の哲学の再構築を目指して科学哲学者と地球科学者の連携を模索し、若干の成果を生み出した(青木編 2013、吉田編 2014)。しかし、上記の課題に対処する論理基盤の欠損と分野間の心情的背景(精神風土と呼んでおく)の相互理解不足のため、機能的な研究推進は、常に議論の対象になっている。
この経験に学んで、異なる集団(専門分化にともなう異分野の研究者)の連携不全とその原因探索改善が社会的に強く求められる時代にはいった。結論的には異教徒、異文化圏、研究異分野などの間に共通の「異なる環境における異なるMC(mind climate精神風土)の形成」に、共通の課題があると推理した。従来、MCとその形成、変遷過程は科学研究の対象ではなかったので、ノーマル・サイエンスの常識を超えて フロンティア 研究と位置付けて、その推進をはかりたい。フロンティア研究は、これまではなかった問い方と答え方の規範の提示から始まる。そうした集団知の創発過程には、従来型の研究・教育組織ではなく、新たな科学論を伴った「変革」の過程が必要となる。こうした科学研究の波浪の出現の前に、いかなる試行錯誤の積み上げが、如何になされたかなどの緻密な分析や、こうした波浪が、次の波浪を誘発し、あるいは抑圧する事例の分析などは、重要で興味深い科学論の課題であろう。
本報告は、講演会会場とポスターセッションで提示する関連課題の緒論として、将来の地球惑星科学の科学史~科学論~科学技術社会論関連研究の活性化と内容充実に寄与することを意図し期待している。
本研究は中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究 IDEAS201608の助成を受けたものである。
文献
青木滋之編、 地球惑星科学の科学史、Nagoya Journal of Philosophy 10 (2013).
熊澤峰夫 他編、全地球史解読 東大出版会(2002)
丸山茂徳 他編、地質学の巨人 都城秋穗の生涯 全3巻 東信堂 (2009)、第3巻未刊
吉田茂生編、生物としての人間と哲学・地球惑星科学の科学史(続)、Nagoya Journal of Philosophy 11 (2014).