JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[O-02] [JJ] 学校教育における地球惑星科学用語

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、小林 則彦(西武学園文理中学高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、座長:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)

09:00 〜 09:30

[O02-01] 地理教育での用語の問題点

★招待講演

*岩田 修二1 (1.東京都立大学名誉教授)

キーワード:自然地理学、造山帯、砂漠、浸食、氷河期

要約:問題ある用語には,①誤った使い方の用語,誤解を招きやすい用語:例 造山帯と変動帯 ②社会に迎合した誤解を招きやすい用語:例 砂漠 ③教科書では正しい用語であるが社会で間違った用語:例 侵食(浸食)・氷期(氷河期)などがある.問題のある用語が存在する理由はそれぞれに存在する.

1.はじめに
 高等学校の地理教科書に出てくる地球惑星科学用語に関しては,大学入試問題の作成時には常に問題になるが,それが地理学会などで議論されることはほとんどない.ここでは,日頃考えているいくつかの問題用語を紹介する.

2.問題ある用語の例示
①誤った使い方の用語,誤解を招きやすい用語の例:
 造山帯と変動帯:造山帯はすべての地理教科書に登場し,山脈・山地という地形を意味し,造山運動は,山地の隆起の意味に使われている.しかし,造山帯・造山運動は,大陸地殻が形成された場所,大陸地殻を作る作用という地質学的な用語であり,地形的な山岳地帯や隆起とは異なった概念である.とくに新期造山帯=険しい山地,古期造山帯=なだらかな山地という説明は事実に反している.この説明では,新期造山帯以外には険しい山岳は存在しない,古期造山帯には平原や険しい山岳は存在しない,という誤った理解を生む.
 一方で,教科書にはプレートテクトニクスの説明があり,変動帯の語がある.しかし,造山帯と変動帯の違いが明瞭に述べられている教科書は少ない.これは,生徒に無用の混乱をもたらす.
 造山帯の説明をするならば,山地地形の部分ではなく,鉱業(鉱山資源)の部分でおこなうべきである.
②社会に迎合した,誤解を招きやすい用語の例:
 砂漠:砂漠は植物にとぼしい荒れた土地の風景を示す用語で,日本社会に定着した一般語である.問題は,この語から生徒がイメージするのが,砂丘が連続する砂砂漠のイメージであることである.世界の砂漠のなかで砂砂漠の面積は3分の1しかない.desertやWüsteの語には荒れ地という意味しかない.沙漠という用語もあるが,沙も砂(渚の)の意味である.中国の地理の教科書では,この誤解を避けるために,荒漠という語を用いている.わが国の生態学では荒原も用いている.生徒に正しい概念を持たせるためには,一般社会と異なる用語を使ってもよいのではないだろうか.
③教科書では正しい用語であるが,社会が誤っている例:
 侵食:地形学の重要な概念である侵食は,教科書では侵食だが,社会一般では浸食の文字が使われる.流水が働くのだから氵(さんずい)だと説明されることが多い.しかし,侵食erosionの意味は「食べる・侵す」であって,水とは関係ない.多くの国語辞書が浸食を使っている理由がわからない.
 氷期:氷期と間氷期の用語が地球環境変動に関連して地理の教科書にも登場するようになったことは好ましい.ところが,最近の地球環境関連の翻訳書や新聞記事などでは氷期ではなく氷河期の語が使われることが多い(間氷河期の語はみたことがないが).glacial periodやglacial ageのglacialを機械的に氷河と訳したのだろうが,氷期は地学系の学界では定着した語であり,教科書にも使われているのだから,氷期と訳すべきであろう.

3.問題のある用語をなくすには
 ①の場合:教科書執筆者(大学教員)が最新の学界動向・研究成果を反映させる(専門外の執筆者が担当するのを避ける).教科書の修正が遅れるのは,教科書会社・高校教師(受験生)・大学入試問題作成者の三つどもえ関係のせいである.
 ②の場合:伝統的用法にとらわれず,改善のために真剣な議論をおこなう.
 ③の場合:社会の流れにおされて教科書の用語が改悪されることのないように注視する.そして,社会へのキャンペーンをおこなう.

参考文献
岩田修二 2013.高校地理教科書の「造山帯」を改訂するための提案.E-journal GEO, 8 (1), 153-164. https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejgeo/8/1/8_153/_pdf