JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[O-02] [JJ] 学校教育における地球惑星科学用語

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 201A (国際会議場 2F)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、小林 則彦(西武学園文理中学高等学校)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、座長:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)

10:00 〜 10:30

[O02-03] 問題のある化学用語

★招待講演

*渡辺 正1 (1.東京理科大学 教育支援機構 理数教育研究センター)

キーワード:化学用語、高校教科書、高大接続

要約:中学校理科・高校化学教科書で使う用語には,大学と「切れた」ものや,意味を正しく伝えないものがある.日本化学会・化学用語検討小委員会が議論してきた用語を主体に具体例をあげ,歴史的経緯,改正の望ましい方向性などにつき私見を紹介したい.



1.はじめに

高校教科書は「固 → 気」の相変化を「昇華」と書きながら,逆向き変化の呼称を曖昧にしている.2014年に日本化学会は,一件を含めて中高校教科書の用語を検討する小委員会(委員長:演者)を立ち上げた.小委員会は約30個を「問題」とみて,会員等からのパブコメと理事会の承認を通じ改正案を公表した1).なお30個の過半につき演者は,私見を含めた解説を一般誌に連載している2).



2.用語検討の注目点

 小委員会の検討作業では,主として下記3点に注目した.

①意味がすんなり伝わるか.

②大学の教育・研究と整合するか.

③国際慣行に合うか(科学に国境はない).

さらには,学術用語のほとんどが外国語の和訳だから,日本語の感覚(複数形がないとか,準・単位として「冊」や「枚」を使うなど)になじむかどうかも注目点になる.



3.具体例(抜粋)

(1)発端の語「昇華の逆」

 凝縮(気 → 液)・凝固(液 → 固)と平仄がうまく合ううえ,中国語圏で使用中の凝華が望ましい.

(2)大学で使わない語

 イオン式(Ca2+ などの呼称):イオンを特別視する必要はないため,化学式でよい.

 価標(H-Clなどの「-」):特別な呼称を使う場面はなく,必要なら「線」や「結合」と呼べばすむ.

 化合(中学理科で「分解」と双璧をなす語):高校以上になると使わないため,反応でよい(なお「化合物」は,高校・大学とも使用).

 

融解塩電解:大学人も産業人も溶融塩電解と呼ぶので,そちらに正常化すべき.

希ガス(rare gas):発見当時(19世紀末)の「見つけにくさ」を表す歴史的用語だから,欧米が20世紀初めから使用中の貴ガス(noble gas)に直すのがよい(一部の大学人も希ガスを使うが,空気の1%も占める成分に「希」はふさわしくない).

標準状態:高校では「0 ºC, 1 atm」を指すが,物理化学では「圧力1 bar ≒ 1 atm」を標準状態とみるため,「標準状態」という用語は使わないのがよい.

(4)法則名

 質量作用の法則は,mass = 質量とした誤訳だろう.意訳でも化学平衡の法則とするのがわかりやすい.

 気体反応の法則,定比例の法則,倍数比例の法則は,どれも実体がわかりにくい(以上の3語はパブコメでも意見が割れ,小委員会提案に至っていない).

(5)未決の2語

 当初から検討項目になりつつも委員(8名)の合意がとれなかったものに,オキソニウムイオン(H3O+)と物質量がある.個人的にはそれぞれヒドロニウムイオン,「ものの量」が適切だと考える(その背景は講演の場で披露の予定).



4.おわりに

 ほかの理数系分野と同じく化学も「論理的思考を鍛える教科」なのに,中高校では「暗記もの」とされやすい.一端を担うのが,(中身ではなく)用語の記憶を問うテストの類だろう.そこを正常化するのにも,用語の吟味は欠かせない.



参考文献

1.化学用語検討小委員会(2015, 2016),化学と工業,68, 363; 同, 69, 244.

2.渡辺 正(2016, 2017)悩ましい用語や表記①~⑥,現代化学,10月号51; 11月号31; 12月号37; 1月号53; 2月号31; 3月号27.