JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ] ポスター発表

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[O-05] 高校生によるポスター発表

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

13:45 〜 15:15

[O05-P41] 電波望遠鏡を用いた地球と太陽の距離の測定

*坂本 杜太1、*隠岐 嘉将1、*阿部 龍迅1、引地 将大1、山田 直哉1、大野 龍世1、西岡 健太郎1 (1.近畿大学附属和歌山高等学校)

キーワード:天文単位、21cm線 H1輝線、地球、太陽

1.動機
私達は以前,地球と星間物質の相対速度を求めることが出来た.そこで,地球が太陽の周りを周る公転速度(以下地球の公転速度という)を,季節を変えて測定した地球と星間物質の相対速度を使って求めることができれば,地球と太陽との間の距離(1天文単位)を求めることができるのではないかと考え,この研究を始めた.

2.以前の研究
宇宙に存在する星間物質内の中性水素原子のエネルギー状態の変化により発せられる周波数1420.40575 MHz(波長21.106114 cm)の電磁波(21 cm線) (以下H1輝線という)の地球にとどく時の周波数を観測した.地球からみた時にその星間物質が視線方向に対して近づく,または遠ざかるという運動をしていることによるドップラー効果から,地球と対象の星間物質との相対速度(以下視線速度という)を計算で求めた.

2-1.H1輝線に着目した理由
地球には様々な種類の電磁波が降り注いでいるが,その多くは大気に反射されるか,吸収されてしまう(図1).そのため,宇宙からくる電磁波を観測したくても観測できる電磁波の周波数は限られている.その限られた観測に適した波長域の中の,H1輝線の観測を実施した.

2-2.観測方向について
H1輝線のドップラーシフトにより視線速度が観測できるのは,星間物質の多い銀河面方向,すなわち,銀緯0°方向に限定されることがわかった.

2-3.視線速度の観測値に与える地球の自転ならびに公転の影響
視線速度は,地球から遠ざかる方向を正とした場合,50km/s~-100km/sであった.
観測地(和歌山県紀美野町・北緯34度14分)での地球の自転速度は0.384km/sであり,地球の自転速度は視線速度に比べ十分に小さい.よって,地球の自転速度の影響は考えなくて良い.地球の公転速度はおよそ29.9km/sであり,地球の公転速度と視線速度がほぼ同じであるため,地球の公転速度の影響を考える必要がある.

3.本研究
3-1.原理
これまでの研究で,地球の公転速度と,地球と星間物質の間の視線速度がほぼ同じということがわかっている.このことを利用すると,期間をおいて2度同じ星間物質の視線速度を観測することにより,地球の公転速度を求めることができるのではないかと考えた.
地球の公転速度が求まれば,地球の一年間の移動距離を求めることにより,地球の公転軌道が完全な円と仮定すれば,地球と太陽との間の距離(1天文単位)を求めることができる.

3-2.観測する星間物質
これまでの研究により,星間物質の視線速度が観測できるのは銀河面,言い換えると銀緯0°の方向に限定されることがわかっている.また,地球の公転面上,言い換えると黄緯0°の方向に存在する星間物質を観測した方が,地球の公転方向と地球から見た星間物質の方向との間の角度による補正する必要がなくなる(図2).これらのことより,銀河面と地球の公転面の交点,言い換えると銀緯0°かつ黄緯0°の方向を観測方向とすることとした.
この条件を満たす方向は2点存在するが,5月と8月の両方の観測時間帯に観測可能である黄経90°黄緯0°の方向の星間物質を観測することとした(図3).
観測する星間物質の座標
黄道座標  黄経 90° 黄緯 0°
銀河座標  銀経 186° 銀緯 0°
赤道座標  赤経 90° 赤緯 23.14°

3-3.観測日時・場所・機器
1回目 平成27年5月9日土曜日 15時~19時 天候 雨のち晴れ
2回目 平成27年8月2日日曜日 8時~12時 天候 晴れ
観測場所 みさと天文台(和歌山県紀美野町)
観測機器 和歌山大学/みさと天文台 8メートル電波望遠鏡

3-4.観測結果 (地球から遠ざかる方向を正) (図4)
5月9日の視線速度 -4.06 km/s
8月2日の視線速度  39.2 km/s

3-5.結論
3-4の観測結果を式1および式2に代入し計算した結果,地球の公転速度は33.3km/s,地球と太陽の距離は,1.67×108 kmと求められた.
視線速度(5月)=V(星間物質)-V(地球)×cos48.23°----式1
視線速度(8月)=V(星間物質)-V(地球)×cos129.30°---式2
これは,真の値1.50×108 km(1天文単位)1)に対して誤差11%であった.
誤差の要因として次のことが考えられる.
・地球の公転軌道が真円ではないこと
・地球の公転速度が一定ではないこと
・星間物質が一定速度で直線運動しているとは限らないこと
・地球の自転の影響

3-6.今後の方針
誤差の要因の寄与を考え,その要因を取り除く方法を検討する.このことによりより真の値に近い距離を求める.

1) 国立天文台編,平成23年:理科年表 第84冊,天文部 p. 天1(77)