JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] [EJ] Mars and Mars system: results from a broad spectrum of Mars studies and aspects for future missions

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、松岡 彩子(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、Sushil K Atreya(University of Michigan Ann Arbor)

[PPS05-P05] Detection of phyllosilicates around ouflow channels in the northeast of the Hellas basin, Mars

中村 勇介1、*小川 佳子1出村 裕英1 (1.公立大学法人会津大学)

キーワード:火星、ヘラス盆地、アウトフローチャネル、層状珪酸塩、CRISMデータ、可視-近赤外分光解析

多くの研究が過去の火星の地表には豊富な水があったと示している [e.g., Carr, 1996] が、現在は火星表面に水はない。含水鉱物は一般に、鉱物が水と長期間接触し変成して形成される。私達の研究の目的は火星に存在する含水鉱物を調査し、火星の水環境を理解する手がかりを得ることである。火星全球における含水鉱物の分布はCarter et al. [2013] により報告されている。しかし、まだ十分な調査が行われているわけではない。典型的な含水鉱物の一種としてphyllosilicatesが挙げられる。これまで火星全球で検出された含水鉱物の約9割はphyllosilicatesが占めている [Carter et al., 2013]。本研究のゴールは火星で未調査あるいは含水鉱物があまり検出されていない地域においてphyllosilicateの有無を最新の観測データを用いて詳細に調べることである。私達は火星南部にあるHellas basinに着目した。Hellas basin(直径約2300km)は火星最大の盆地である。盆地周辺でまだ解析が十分に行われていない北東部に分布する2 つのアウトフローチャネル:Dao Vallis(33 ̊~40 ̊S, 82 ̊~94 ̊E,長さ約800km)とHarmakhis Vallis(39 ̊~43 ̊N, 86 ̊~95 ̊E, 長さ約500km)を調査対象とした。アウトフローチャネルに焦点をあてた理由は、ヘスペリア期に大量の水が流れた跡にできる地形と解釈されていながら、その周辺に、含水鉱物の検出頻度が少ないためである。詳細な解析によりphyllisilicatesの新たな検出が期待される場所である。解析にはMRO (Mars Reconnaissance Orbiter) 搭載のCRISM (Compact Reconnaissance Imaging Spectrometer for Mars) 観測データを使用した。CRISMデータは近赤外波長をカバーするスペクトルデータである。phyllosilicatesに特徴的な吸収特徴をCRISMデータから検出することができる。CRISMスペクトル解析にはCAT (CRISM Analysis Tool)を使用した。Dao Vallis周辺でCRISM観測が行われた17シーン全てを解析した結果、そのうち6シーンでphyllosilicatesを検出した。Harmakhis Vallisでは3シーンを解析した結果、2シーンでphyllosilicatesを検出した。phyllosilicatesの局所的な分布としてはアウトフローチャネルの壁部分に集中していることがわかった。なお、検出されたphyllosilicatesの種類はillite, vermiculite, saponite, smectiteに及ぶ。鉱物種に応じた分布の違い、系統性は特に見られなかった。Dao Vallis周辺の17シーンのうち3シーンは既に[Carter et al., 2013]が解析を行っていた地域である。[Carter et al., 2013] の結果ではいずれのシーンでもphyllosilicateは検出されていなかった。しかし本研究ではその中の2シーンからphyllosilicatesを検出した。このように結果が異なった理由としては、CRISMデータの校正バージョンの違いが考えられる。 Carter et al. [2013] が解析した当時より、現在は校正係数が更新され、データの精度が上がったため、今までphyllosilicateが検出されなかった観測データから新たに検出されるようになった可能性がある。CATを用いた解析過程においては、途中段階で、入力画像サイズを揃えるためにデータによってはresizeする必要がある場合がある。今回の解析でresizeなしで解析を行うことができたCRISMデータ全6シーンでは例外なくphyllosilicatesが検出された。Resizeは空間解像度を落とし、画素間で反射率値を平均化するため、本来各画素に含まれていたphyllosilicatesを示す吸収帯のシグナルを埋もれさせてしまう可能性が高い。よって、本研究により検出されたphyllosilicatesの分布は最小見積もりであると言える。今回phyllosilicatesが未検出だった場所でも、校正係数のさらなる更新やresizeの回避により、今後検出される可能性が大いにある。phyllosilicatesの検出箇所が増え、その鉱物種や分布が詳細に明らかになれば、その形成に必要な温度圧力環境から、Dao VallisとHarmakhis Vallis、そしてHellas Basin周辺における水環境の制約につながるだろう。