[PPS05-P06] 火星ユートピア地域におけるフィロ珪酸塩の分布と地形の関係
キーワード:火星、ユートピア平原、層状珪酸塩、CRISMデータ、可視-近赤外分光解析、クレーター
さまざまな研究から、火星の地表にはかつて豊富な液体の水があったと示されているが、現在は火星表面に水はない。私たちの研究の目的は含水鉱物の種類や分布を調べることによって火星の過去の水環境を理解する手がかりを得ることである。含水鉱物は、鉱物が長期的に水と接触することによって生成される。なかでもフィロ珪酸塩はその層状の結晶構造により水を内部に含みやすく、典型的な含水鉱物とされる。
かつて海があったとされる火星北部低地では含水鉱物の検出が相対的に少ない [Carter et al., 2013]。その理由は、若い地層が表面を覆っているためであると解釈されている。しかし、火星北部低地の主要な地域の1つであるUtopia地域の一部を対象とした、最新の分光観測データ解析研究 [菅原ら, 2016] により、フィロ珪酸塩が新たな場所で検出されており、さらなる遍在の可能性が示されている。本研究の目的は、Utopia地域全体に解析領域を広げ、フィロ珪酸塩の分布を調べることである。
本研究では、菅原ら [2016] で未調査であったUtopia地域南部 (10-25N, 115-140E) と同地域北東部 (25N-70N, 140-160E) を解析対象領域として設定した。また、着目する地形は、クレーターと、溝地形とした。これらの地形は隕石の衝突や地滑りによって形成されるため、地下の鉱物が表面に露出した可能性が高いと考えられる。本研究では、Mars Reconnaissance Orbiter (MRO)に搭載されたCompact Reconnaissance Imaging Spectrometer for Mars (CRISM) が観測した可視-近赤外分光データを用いた。フィロ珪酸塩に特徴的な吸収帯の有無を調べ、鉱物種を同定し、その分布を明らかにしようとした。
結果としては、調査した15箇所のクレーターと5箇所の溝地形のうち、5箇所のクレーターと2箇所の溝地形でフィロ珪酸塩を検出した。フィロ珪酸塩が見つかったスポットは、craterでは、その rim, floor, ejectaであり、 溝地形では、その cliff, landslide placesであった。いずれも局所的にerosionalな場所であるといえる。検出されたフィロ珪酸塩の種類はserpentine, saponite, smectite, kaolinite-serpentineであった。フィロ珪酸塩が検出された地域はほとんどがLate Hesperian~Middle Amazonianに形成された火山性地質であり、標高-2000m以下に分布していた。Achille and Hynek [2010] によれば、火星の北部低地において-2544m±177mに海岸線があると示されている。
本研究の結果と菅原ら [2016] を比較•統合すると、以下のことが言える:Utopia地域におけるフィロ珪酸塩の分布は、標高-2000m以下のかつて海があったとされる領域内のerosionalなスポットかつLate Hesperian~Middle Amazonianの地質年代に区分されている場所に集中しているかもしれない。Late Hesperian~Middle Amazonian期の火山活動による溶岩流が水と長期接触した結果、フィロ珪酸塩が生成された可能性が考えられる。隕石の衝突や地滑り、風化などの浸食作用により、若い地層の下に埋もれていたフィロ珪酸塩が表面に露出したと解釈することができる。
References:
Sugawara, S., Y. Ogawa, and H. Demura, Distribution of phyllosilicates on
Utopia Planitia, Mars, Japan Geoscience Union 2016 meeting, May
22-26, Makuhari Messe, Chiba city, Japan, 2016.
Carter, J., F. Poulet, J.-P. Bibring, N. Mangold, and S. Murchie, Hydrous
minerals on Mars as seen by the CRISM and OMEGA imaging
spectrometers: Updated global view, J. Geiphys. Res., 118, pp. 831
–858, doi:10.1029/2012JE004145, 2013.
Achille, G. D. and B. M. Hynek, Ancient ocean on Mars supported by global
distribution of deltas and valleys, Nature Geosci. 3, pp. 459-463,
doi:10.1038/ngeo891, 2010.
かつて海があったとされる火星北部低地では含水鉱物の検出が相対的に少ない [Carter et al., 2013]。その理由は、若い地層が表面を覆っているためであると解釈されている。しかし、火星北部低地の主要な地域の1つであるUtopia地域の一部を対象とした、最新の分光観測データ解析研究 [菅原ら, 2016] により、フィロ珪酸塩が新たな場所で検出されており、さらなる遍在の可能性が示されている。本研究の目的は、Utopia地域全体に解析領域を広げ、フィロ珪酸塩の分布を調べることである。
本研究では、菅原ら [2016] で未調査であったUtopia地域南部 (10-25N, 115-140E) と同地域北東部 (25N-70N, 140-160E) を解析対象領域として設定した。また、着目する地形は、クレーターと、溝地形とした。これらの地形は隕石の衝突や地滑りによって形成されるため、地下の鉱物が表面に露出した可能性が高いと考えられる。本研究では、Mars Reconnaissance Orbiter (MRO)に搭載されたCompact Reconnaissance Imaging Spectrometer for Mars (CRISM) が観測した可視-近赤外分光データを用いた。フィロ珪酸塩に特徴的な吸収帯の有無を調べ、鉱物種を同定し、その分布を明らかにしようとした。
結果としては、調査した15箇所のクレーターと5箇所の溝地形のうち、5箇所のクレーターと2箇所の溝地形でフィロ珪酸塩を検出した。フィロ珪酸塩が見つかったスポットは、craterでは、その rim, floor, ejectaであり、 溝地形では、その cliff, landslide placesであった。いずれも局所的にerosionalな場所であるといえる。検出されたフィロ珪酸塩の種類はserpentine, saponite, smectite, kaolinite-serpentineであった。フィロ珪酸塩が検出された地域はほとんどがLate Hesperian~Middle Amazonianに形成された火山性地質であり、標高-2000m以下に分布していた。Achille and Hynek [2010] によれば、火星の北部低地において-2544m±177mに海岸線があると示されている。
本研究の結果と菅原ら [2016] を比較•統合すると、以下のことが言える:Utopia地域におけるフィロ珪酸塩の分布は、標高-2000m以下のかつて海があったとされる領域内のerosionalなスポットかつLate Hesperian~Middle Amazonianの地質年代に区分されている場所に集中しているかもしれない。Late Hesperian~Middle Amazonian期の火山活動による溶岩流が水と長期接触した結果、フィロ珪酸塩が生成された可能性が考えられる。隕石の衝突や地滑り、風化などの浸食作用により、若い地層の下に埋もれていたフィロ珪酸塩が表面に露出したと解釈することができる。
References:
Sugawara, S., Y. Ogawa, and H. Demura, Distribution of phyllosilicates on
Utopia Planitia, Mars, Japan Geoscience Union 2016 meeting, May
22-26, Makuhari Messe, Chiba city, Japan, 2016.
Carter, J., F. Poulet, J.-P. Bibring, N. Mangold, and S. Murchie, Hydrous
minerals on Mars as seen by the CRISM and OMEGA imaging
spectrometers: Updated global view, J. Geiphys. Res., 118, pp. 831
–858, doi:10.1029/2012JE004145, 2013.
Achille, G. D. and B. M. Hynek, Ancient ocean on Mars supported by global
distribution of deltas and valleys, Nature Geosci. 3, pp. 459-463,
doi:10.1038/ngeo891, 2010.