JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] [JJ] 惑星科学

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、岡本 尚也(千葉工業大学惑星探査研究センター)、座長:黒澤 耕介(千葉工業大学惑星探査研究センター)、座長:宮腰 剛広(海洋研究開発機構)

11:45 〜 12:00

[PPS07-28] 磁場勾配が存在する宇宙空間における一般の固体粒子の物質分離特性

*植田 千秋1寺田 健太郎1久好 圭治1 (1.大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻)

キーワード:物質分離、磁場勾配、反磁性物質、常磁性物質

銀河内の大多数の領域において、磁場と固体微粒子(グラファイト、ダイヤモンド、ケイ酸塩、金属粒子)が共に存在することが、観測で明らかとなっている。しかしながら、これまでの宇宙科学、惑星科学では、主として磁場と電離ガスの相互作用が注目され、磁場と固体粒子との相互作用については十分に論じられてこなかった。一方、宇宙空間や星形成の現場では、有機物/ケイ酸塩鉱物や金属球などのダストに関して分布の偏りが観測されているが、それらは物質の揮発性/難揮発性に起因する「温度勾配」に伴う現象と考えられてきた。近年私たちは、磁場勾配中に浮遊させた反磁性の固体粒子が、その磁性によらず磁場ゼロの方向へ並進することを見出し、さらにその終端速度が質量に依存せず、物質固有の磁化率X (emu/g)のみに依存することを報告した[1][2]。今回、同じ原理を用いることで、異種の反磁性粒子および常磁性粒子の集団が、物質の種類ごとに分離されることを確認したので、その結果を報告する[3]。一般に磁気分離は、粒子内に発生する磁気的ポテンシャルによって引き起こされるが、これまでの磁気科学では、強磁性、フェリ磁性および強い常磁性物質のみで分離が有効と考えられてきた。
上記の分離の有効性を調べる目的で、小型のボックスを1.8mのシャフト内で落下させ、短時間の微小重力環境を発生させた。このボックス内に、ネオジム磁石で作成した小型の磁気回路(1.5×2.0×2.0cm)を設置し、その中に試料台および試料をセットした。上記の装置をガラス製・真空容器内に密閉し100Paまで減圧した.試料粒子の集団は磁場勾配力が最大になる位置にセットされており、微小重力の開始と共に、反磁性粒子は磁場ゼロの方向へ並進し、一方、常磁性粒子は磁場中心の方向に並進した (動画はYouTube: Magnetic separation of general solid particles realized by a permanent magnetを参照)。一般に、x軸方向に単調減少する磁場中で、磁化率X、質量mの粒子に誘導される並進運動は、 (1/2)mXB(0)^2 =(1/2)mv(T)^2 のエネルギー保存則に従う。但しB(0)は初期位置の磁場強度、v(T)は終端速度を表す。即ちv(T)はmに依存せず、物質固有のXのみに依存するため、上記の物質分離が実現する。今回観測された粒子の速度から、その粒子のX値が求められたが,それらは全て文献値と一致した。これにより観測した分離が上記のエネルギー保存則に従って進行したことが確認された[3].観測したX値の範囲は,自然界の主要な物質の値の範囲をほぼカバーしており、固体粒子全般の分離が、物質固有のX値の差異と「磁場勾配」によっても起こりうることを示唆する。このことは宇宙空間における物質分布の発生機構に新たな視点を提供しえる。また惑星科学では異種粒子の混合試料を扱う場合が多いが、今回の分離技術は、その分析の前処理過程としても利用できる。

References
[1] K. Hisayoshi, S. Kanou and C. Uyeda : Phys.:Conf. Ser., 156 (2009) 012021.
[2] C. Uyeda, K. Hisayoshi, and S. Kanou : Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 064709.
[3] K. Hisayoshi, C. Uyeda and K. Terada : Sci. Rep. (Nature Pub) 6 (2016) 38431