JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] [JJ] 惑星科学

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鎌田 俊一(北海道大学 創成研究機構)、岡本 尚也(千葉工業大学惑星探査研究センター)

[PPS07-P25] 集積成長する火星上に形成する成層した混成型原始大気

*齊藤 大晶1倉本 圭1 (1.北海道大学 理学研究院)

キーワード:原始火星、原始大気

火星隕石の Hf-W 同位体分析によると, 火星は CAI 形成後少なくとも 1.8 ± 1.0 Myr 以内に現質量の 1/2 に成長し, なおかつコア・マントルの分化が進行していた可能性が高い (Dauphas and Pourmand, 2011). この短い集積時間は, 火星の集積が基本的に原始太陽系星雲中で進行したことを示唆している. 一方で, 原始惑星が月質量以上になると微惑星から H2O をはじめとする揮発性成分が衝突脱ガスをし始めることから, 原始火星は星雲ガスおよび脱ガス成分の双方からなる原始大気を形成した可能性がある. そこで我々は, 上層が星雲ガス成分からなり, 下層が脱ガス成分からなる混成型原始大気の熱的構造ついて調べてきた. その結果, 火星材料物質に 2 成分モデルから推定される 4 wt% の濃度の揮発性成分を与えた場合,集積が 4 Myr 以内に完了すれば, 高温な原始大気が形成され, 最終質量に達するまでに, 地表面温度が岩石の融点 (1500K) を超えることがわかった. このことは, マグマオーシャンの形成によって年代学が示すようなコア・マントルの分化が効率よく進行した可能性があることを示唆する.


以上のモデル計算では, 星雲ガス成分と脱ガス成分は両者の密度差のために互いに混合しないと仮定してきた. しかし, 実際には対流, 分子拡散等による混合が起こる可能性がある. また, 材料物質中の揮発性成分濃度についても不定性があると考えられる. 原始大気の混合や揮発性成分濃度によって, 大気の熱的構造が大きく変わる可能性がある.


そこで本研究では, 組成境界と対流圏界面の位置, および分子拡散のタイムスケールと集積時間の比較をすることで, 星雲ガス成分と脱ガス成分の両者が集積時間以内に分離状態を保つための条件を調べた. 集積時間として, 隕石年代学と矛盾のない 1 – 6 Myr をパラメタとして与えた. 材料物質から脱ガスする揮発性成分の濃度 ( fdeg ) が 4 wt% の場合, 与えた集積時間や原始火星質量によらず, 組成境界は常に対流圏界面の上部に位置する. つまり, 対流による混合は生じない. また分子拡散によって星雲ガス成分と脱ガス成分が混合する場合, 両層間で水素分子の交換が起こると考えられる. 組成境界高度における水素分子の拡散係数と組成境界と対流圏界面の高度差, 星雲ガス層下端における水素濃度から星雲ガス大気層から脱ガス大気層への水素流入フラックス FH2 が求まる. 質量交換のタイムスケールは, 脱ガス大気層に存在する水素分子の質量を FH2 で割ることで見積もることができる. このとき, 質量交換のタイムスケールは集積時間に比べ 102 倍以上大きい. すなわち, 分子拡散による混合は, 集積時間内にほとんど生じない. 両成分が混合しないと仮定すると, 保温効果は fdeg を小さくするにつれて弱くなる. fdeg が 約 0.1 wt% 未満の場合, 隕石年代学が示唆する集積時間では, 地表面温度は岩石の融点に達しない. 一方, fdeg が約 2 wt% よりも小さい場合, 対流圏界面が組成境界よりも上部に位置するため, 星雲ガス層と脱ガス大気層をまたぐ対流が生じ, 両成分が混合する可能性がある. このとき, 大気の熱的構造が変化すると考えられるが, 定量的な見積もりについては, 現在解析中である.