11:45 〜 12:00
[PPS08-11] 月のマグマ噴出量から制約される噴出プロセスとマグマ生成量の表/裏二分性
キーワード:月、海の火成活動、二分性、玄武岩、地殻厚
月では39億年以上前に起こった衝突盆地の形成によってつくられた低地を,マントルの部分溶融によって生成したマグマが埋めることで,海と呼ばれる地形が形成された.月の海の火成活動は裏側に比べて表側で活発であったことが知られており,マグマ噴出量の比較から,表側に比べて裏側ではマグマ生成量が少なく,1/3~1/10程度であったという議論がなされてきた.しかし,裏側の海のマグマ噴出量の見積もりは一部の領域に限られており,表側と裏側のマグマ噴出量の違いに関する理解は不十分である.また,マグマのリキダス密度は地殻の密度よりも大きいため,マグマ噴出量はマグマ生成量だけでなく,地殻厚にも強く依存すると考えられる.しかし,これまで各盆地内のマグマ噴出量と地殻厚の関係について,定量的な調査は行われてこなかった.そこで本研究では,マグマ生成量の表/裏二分性を制約するため,(1) 主に月裏側の未調査の海でマグマ噴出量を推定する,(2)マグマ噴出量と地殻厚の関係を定量的に明らかにし,マグマの上昇・噴出過程に制約を与える,ことを目的とする.マグマ噴出量については,「かぐや」の地形カメラ,マルチバンドイメージャ,数値地形モデルのデータを用いて,本研究で新たに6つの海で決定し,その他12ヶ所の海では先行研究での推定値を用いた.この際,海の溶岩流の厚みはその上に存在するクレータの直径-リム高さ比,および掘削深さによって推定され,求められた溶岩流の厚みに海領域の表面積をかけることで,マグマ噴出量を算出した.また地殻厚については,GRAIL重力場データから推定した地殻厚モデルを用い,月の主要な衝突盆地において,盆地内の地殻厚分布を調査した.
各盆地で地殻厚と海の分布を比較したところ,主なマグマ噴出は最も地殻が薄い盆地中心部で起こっていることがわかった.そこで,各盆地において地殻が最も薄い領域の地殻厚(地殻厚最小値Hmin)とマグマ噴出量を比較したところ,Hminが小さい盆地でのみマグマ噴出が起きていることから,Hminがマグマが噴出できるかを決める主要因であったことがわかった.その上で噴出量の分布を見てみると,以下の特徴が見られた.(a) 裏側ではHmin~12 km,表側ではHmin~18-20 kmに マグマ噴出境界が存在する,(b) マグマが噴出している盆地では地殻厚と噴出量の間に明瞭な相関はなく,フラットな分布をもつ,(c) 同程度のHminをもつ盆地でも,表側に比べて裏側ではマグマ噴出量が~100倍程度小さい.先行研究では少数の盆地のマグマ噴出量の推定から,表裏の不均質は3-10倍程度と見積もられてきたが,本研究による網羅的な調査により,マグマ噴出量の不均質はより大きかったことが示された.
観測されたマグマ噴出量と地殻厚最小値Hminの間の特徴的な関係(a),(b)を説明するために,深部におけるダイアピルの浮力を駆動力とする地殻内のダイク成長モデルを考える.この際,ダイクの成長はダイク先端の応力拡大係数を用いて評価する.まず地殻厚と噴出量の関係によると,シャープな噴出境界があり,かつマグマが噴出している盆地において地殻厚とマグマ噴出量に相関が見えないことから,表側と裏側それぞれでダイアピルには典型的なサイズがあり,同程度の大きさのダイアピルが上昇してきたと考えられる.ここで,噴出可能な地殻厚(裏側:12 km,表側:19 km)を制約条件として,上昇してくるダイアピルの半径を見積もったところ,裏側では2.2-3.3 km,表側では3.4-4.4 kmであった.それらの体積は数百km3のオーダーであり,雨の海南西部の溶岩流地形から推定されている1回あたりの噴出量と整合的である.また,表側と裏側のダイアピル体積比は2-4倍であった.一方,観測された噴出量の比は~100倍であり,これはダイアピルサイズの違いだけでは説明できない.したがって,表側では裏側よりも噴出回数が多かったと考えられ,観測されたマグマ噴出量との比較から,それぞれの噴出回数は裏側では10-200回,表側では200-3000回であり,その比は4-8倍と見積もられた.噴出回数はダイアピルが上昇してきた回数と考えると,これにダイアピル体積を掛けることで,マグマの生成量を見積もることができる.その結果,表側ではkm3,裏側ではkm3と見積もられ,表裏比は15~20倍と見積もられる.
各盆地で地殻厚と海の分布を比較したところ,主なマグマ噴出は最も地殻が薄い盆地中心部で起こっていることがわかった.そこで,各盆地において地殻が最も薄い領域の地殻厚(地殻厚最小値Hmin)とマグマ噴出量を比較したところ,Hminが小さい盆地でのみマグマ噴出が起きていることから,Hminがマグマが噴出できるかを決める主要因であったことがわかった.その上で噴出量の分布を見てみると,以下の特徴が見られた.(a) 裏側ではHmin~12 km,表側ではHmin~18-20 kmに マグマ噴出境界が存在する,(b) マグマが噴出している盆地では地殻厚と噴出量の間に明瞭な相関はなく,フラットな分布をもつ,(c) 同程度のHminをもつ盆地でも,表側に比べて裏側ではマグマ噴出量が~100倍程度小さい.先行研究では少数の盆地のマグマ噴出量の推定から,表裏の不均質は3-10倍程度と見積もられてきたが,本研究による網羅的な調査により,マグマ噴出量の不均質はより大きかったことが示された.
観測されたマグマ噴出量と地殻厚最小値Hminの間の特徴的な関係(a),(b)を説明するために,深部におけるダイアピルの浮力を駆動力とする地殻内のダイク成長モデルを考える.この際,ダイクの成長はダイク先端の応力拡大係数を用いて評価する.まず地殻厚と噴出量の関係によると,シャープな噴出境界があり,かつマグマが噴出している盆地において地殻厚とマグマ噴出量に相関が見えないことから,表側と裏側それぞれでダイアピルには典型的なサイズがあり,同程度の大きさのダイアピルが上昇してきたと考えられる.ここで,噴出可能な地殻厚(裏側:12 km,表側:19 km)を制約条件として,上昇してくるダイアピルの半径を見積もったところ,裏側では2.2-3.3 km,表側では3.4-4.4 kmであった.それらの体積は数百km3のオーダーであり,雨の海南西部の溶岩流地形から推定されている1回あたりの噴出量と整合的である.また,表側と裏側のダイアピル体積比は2-4倍であった.一方,観測された噴出量の比は~100倍であり,これはダイアピルサイズの違いだけでは説明できない.したがって,表側では裏側よりも噴出回数が多かったと考えられ,観測されたマグマ噴出量との比較から,それぞれの噴出回数は裏側では10-200回,表側では200-3000回であり,その比は4-8倍と見積もられた.噴出回数はダイアピルが上昇してきた回数と考えると,これにダイアピル体積を掛けることで,マグマの生成量を見積もることができる.その結果,表側ではkm3,裏側ではkm3と見積もられ,表裏比は15~20倍と見積もられる.