JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] [JJ] 月の科学と探査

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 102 (国際会議場 1F)

コンビーナ:長岡 央(早稲田大学理工学術院総合研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、西野 真木(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、本田 親寿(会津大学)、座長:晴山 慎(聖マリアンナ医科大学生理学教室(物理学分野))、座長:大竹 真紀子(JAXA)

12:00 〜 12:15

[PPS08-12] 月の後期火成活動の玄武岩組成の特徴

*加藤 伸祐1諸田 智克1山口 靖1渡邊 誠一郎1大嶽 久志2大竹 真紀子2二村 徳宏3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻、2.宇宙航空研究開発機構、3.日本スペースガード協会)

キーワード:月、火成活動、鉱物組成、スペクトル

月のマグマオーシャンからの固化過程やその後のマントルの熱進化過程を理解するためには,月の火成活動史を復元することが重要である.月の海の玄武岩の組成と年代との関係を調査することによってマントルの水平・鉛直方向の組成に関する情報が得られる可能性があり,それによって月マントルの熱進化モデルを制約できると期待される.先行研究におけるクレーターカウンティングによって決定された月の海の玄武岩の年代から,海の火成活動にはセカンドピークが存在したことが明らかになった.セカンドピークを構成している玄武岩の噴出活動は主に月の表側の熱源元素が多く濃集しているProcellarum KREEP Terrane (PKT)に集中している.このセカンドピークを引き起こした原因とそのマグマソースを解明することは,月の熱進化史に重要な制約を与えられると考えられる.
我々はこれまでの研究で,月の海を構成する溶岩流の噴出年代とチタン含有量の関係を調査してきた.その結果として,約23億年前を境にしてチタン含有量が有意に上昇したことが明らかになった.このチタン含有量の違いはマグマソースの違いであると考えられるため,23億年前以前を「Phase-1火成活動」,23億年前以後を「Phase-2火成活動」と呼ぶこととする.そして,Phase-2火成活動はPKTの一部の領域で短期間に集中して起きていること,選択的に高いチタン含有量であること,セカンドピークの年代とよく一致することから,月マントル内に存在したチタンリッチなマントル部分が約23億年付近で再溶融し玄武岩を噴出させたことによる活動であるという仮説を提唱している.
我々はさらに,火成活動のソースの変化を示す証拠が地形に残されていないか検証するためにPKTにおいて標高を計算した.その結果,PKTの中心で直径約1000km,高さ500mの円形の台地状の地形が観測された.またこの台地はPhase-2の火成活動の中心に位置しており,台地状地形の成因はPhase-2活動と関係していることが示唆される.
そこで我々はPKT中心領域に着目し,同領域の火成活動史を復元することで,Phase-2火成活動のマグマソースと発生メカニズムを明らかにすることを目的とする.本研究ではまず,かぐやマルチバンドイメージャ(MI)と地形カメラ(TC)の画像データ,標高データ(DTM)を用いて,PKT中心領域の地質図を作成した.地質図の作成には,地形のラフネス・MIの特定の波長の吸収深さ・MIの8バンドのデータの主成分解析結果を用いて,高地と海の境界・玄武岩ユニット同士の境界を判断した.次に,この地質図を用いてPhase-1とPhase-2の玄武岩ユニットの鉱物量比を求める.リモートセンシングデータで天体表面の岩石の鉱物組成を調査するためには,連続スペクトルデータを用いることが有効である.鉱物はそれぞれの結晶構造を反映した特徴的なスペクトルの吸収帯を持っており,月面の反射スペクトルには様々な鉱物などの混合の影響により複雑な吸収帯が存在する.複雑な吸収スペクトルを個別の鉱物の吸収帯に分離する方法の1つとして修正ガウス関数モデル(MGM)(Sunshine et al., 1990)が一般的に使用されている.しかし,MGMでは複数の鉱物の吸収帯をそれぞれ複数のガウス関数で表現するため,フィッティングパラメータが多くなり,安定した解が得られないという問題があった.二村 (博士論文, 2008)では月の主要鉱物であるカンラン石,高Ca輝石,低Ca輝石,斜長石の反射スペクトルの吸収帯の特徴を少数のパラメータで定式化し,MGMに組み込むことで変数を大幅に減らす方法が考案され,小惑星の構成鉱物の推定に適用されている.本研究では,新たに鉱物サンプルを増やしてこの手法の校正式を再決定し,月の海の反射スペクトルに対して適用する.我々は現在までに,地質図の作成範囲をPhase-2火成活動の玄武岩ユニットをおよそ全て網羅するような領域に拡張し,Phase-1,Phase-2,Tranquillitatisの反射スペクトルの解析を行い,海の玄武岩の鉱物量比や元素組成の違いを検証した.その結果,Phase-2の溶岩流が台地状地形の上部から流れ出ているように見えること,それらPhase-2の玄武岩の鉱物量比がPhase-1や静かの海の高チタン玄武岩とも異なることが分かってきた.本発表では,上記の新たに作成したマップとスペクトルの解析結果について発表する.