JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] [JJ] 月の科学と探査

2017年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:長岡 央(早稲田大学理工学術院総合研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、西野 真木(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、本田 親寿(会津大学)、座長:佐伯 和人(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)、座長:花田 英夫(国立天文台RISE月惑星探査検討室)

09:00 〜 09:15

[PPS08-19] 月の自由コア章動の観測可能性

*花田 英夫1大江 昌嗣2ペトローバ ナターリア3グセフ アレクサンダー3 (1.国立天文台RISE月惑星探査検討室、2.奥州宇宙遊学館、3.カザン連邦大学)

キーワード:月の内部構造、自由コア章動、流体核共鳴、月の潮汐

地球には流体核があり、流体であるので、その外側のマントルとは別の回転軸で回転をすることができる。何らかの原因で、流体核の形状軸と回転軸の方向がずれると、流体核とマントルの境界面(CMB)に働く力の分布が形状軸に対して非対称になり、偶力が発生する。この偶力によって、マントルと流体核の回転軸がお互いのまわりを自転と逆の向きにゆっくりと回りだすのが、自由コア章動(FCN)と呼ばれる。地球の場合、この周期は約460恒星日であるが、地球上の回転系で見ると、1-1/460(回転/恒星日)の角速度で、ほぼ1恒星日周期となる。1恒星日周期付近には、1日周期の潮汐の成分が多数あり、これらはFCNと共鳴を起こし、震幅が増幅され、流体核共鳴と呼ばれている。

さて、月にも流体核があるかどうかは、過去の内部磁場の有無、熱史に制約を与えることができ重量な問題であるが、未だよくわかっていない。過去の月レーザ測距の観測データの解析から内部でのエネルギー消散を示唆したもの、潮汐加熱の影響を理論的に計算し内部の部分溶融を示唆した等の研究はあるが、直接的な観測はない。流体核の存在を示す一つの方法はFCNを観測することである。FCNの周期がわかれば流体核の大きさやCMBの扁平率等がわかる。ここでは、FCNが観測可能かどうかを考えてみる。

月の自由コア章動の周期は、数10年~約200年と月の内部構造モデルによって幅があり、振幅は約16秒角以下と見積もられている。これを天文観測で観測することは、周期が非常に長いのでかなり困難が予想されるが、地球で観測されたように、自由コア章動との共鳴によって潮汐の振幅が増幅される効果を観測する方が少し現実的である。月の平均自転速度をΩ、自由コア章動を円運動と仮定してその空間に対する角速度をnとすると、月の上では相対的に、Ω-nと観測され、自由コア章動の周期を200年とすると、月の上では、0.0366-1/(200×365)=0.03660099-0.00001370=0.03658729(27.331日)となる。

27.3日付近に月の潮汐の成分が多数あるので、FCNの共鳴によって振幅が増幅される可能性がある。潮汐ばかりでなく、原動力が同じである月の回転変動(強制秤動)についても、潮汐と同じ周期成分があるので、共鳴の可能性がある。1000年以上に拡張した月の暦DE421の解析からその検出可能性が指摘されている(Rambaux&Williams, 2010)。しかし、月には、FCN以外にも、歳差(約24年周期)、地球のチャンドラ極運動に相当する極運動(約75年)、自由秤動(経度方向2.9年、緯度方向約100年)等の自由モードがあり(Gusev他、2016) これらの周期との共鳴も考えられ、複雑な応答が予想される。

ここでは、それらの共鳴の効果について推定するとともに、月表面での歪や重力潮汐の観測によってFCNの存在を示す可能性について検討する。