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[PPS08-20] 機械学習法による深発月震の分類と月の科学と探査への応用
キーワード:深発月震、機械学習法、月震波形解析、月内部構造、月探査
1969-1977年の間に行われたNASAのアポロ月地震探査において、アポロ12,14,15,16号の4観測点で多数の月地震が観測された。中でも、月深部およそ700-1200kmの間で発生する深発月震は最も数多く(約7000個)観測されたイベントであり、これまで106個の震源位置が同定されている。月の深部構造に関する知見はこのような震源位置が同定された深発月震の走時解析から得られてきた(e.g., Lognonné et al.,2003, Matsumoto et al.,2015)。特に、深発月震は月内部に働く潮汐応力に関与して同一震源で繰り返し発生しており、同一震源の波形は類似している事が分かっている (Nakamura et al., 1982)。そして、これまで多くの深発月震イベントがこの波形の類似性を利用して震源同定が行われてきた(e.g., Nakamura,2003)。その一方で、発見されている月震の約20%が未だ未分類であり数百個以上の深発月震イベントの震源が決められていない。これは、従来の波形の類似性を用いた震源同定は主に時系列波形のみを用いていたため(e.g., Nakamura,2003, Bulow et al.,2005)、震源を分類するのに十分に有効な特徴量を抽出できなかった可能性がある。そこで、我々は教師有り機械学習法を使用して、深発月震の震源分類に有効な特徴量を見出し、新たな基準を用いての震源分類について研究した。
本研究では、Apollo12号で観測された深発月震で特に活動的な震源で発生したイベントを分類に用いた。まず、我々は代表的な教師有り機械学習法の一つであるSupport Vector Machine (SVM)を使用して、震源を分類する特徴量として時系列波形のみでなく、周波数成分でパワースペクトル密度(PSD)を与えてその有効性を確かめた。その結果、P波到達時刻から15分間のデータのPSDが最も震源分類に有効である事を示せた (Goto et al,. 2013, 加藤等, 2016)。また、代表的な5つの機械学習法を使用して、深発月震の震源分類に有効な手法を調べた結果、Neural Networkが最も有効である事が確かめられた (菊池等, 2016)。一方で、月震波形は一般に非常に振幅が小さく、また強い散乱を受けているため、特徴量の抽出が容易でないイベントも多い。深発月震は主に地球-太陽-月の位置関係(潮汐応力)に関与して発生する事が分かっている(e.g., Lammleign,1977)。そこで、我々は震源分類の特徴量で波形を使用しないものとして、月震の発震時刻における月と他の惑星間の位置関係について調べた。その結果、いくつかの深発月震源を切り分けるのに地球と月間のある特定方向における相対位置と速度が重要である事が分かった (加藤等, 2017)。
このような新しい特徴量、震源分類の方法はこれまで未分類であった深発月震イベントの震源同定に使用可能である事が示されている (菊池等,2017)。現在、位置が分かっている深発月震源の大部分は月の表側であり、裏側での深発月震源はわずかにしか発見されていない。一方、(Nakamura,2005)では、裏側起源と推定される月震イベントが1-2の観測点で検出されている事を述べている。もし、我々の手法を用いて未分類深発月震がこれらと同一震源である事が分かり、観測点数を増やせれば、走時解析から新たな裏側深発月震源を発見できる可能性がある。この場合、これまで未知であった月裏側の月震活動度や裏側内部構造などについて新たな制約を与えられ、月の二分性に関して重要な知見を得る事が期待できる。また、震源分類の新しい特徴量を用いて7年間の連続観測データから新たな深発月震を多数発見できれば、月震の発生周期と発生メカニズムに関して新たな情報を得る事も期待できる。加えて、SELENE-2 (Tanaka et al., 2008)やApproach (山田等, 2016)で代表される将来の月地震探査では1-2点の観測点に限られており、走時データのみから深発月震の震源位置を独立に決定するのが困難である。この際、月震発生時の月と惑星の位置関係から震源の同定が可能となれば、少数観測点でも将来探査で新たな走時データを得る事ができるようになる。本発表では上述した機械学習法による深発月震の分類結果を紹介すると供に、この手法の将来の月科学、探査への応用を報告する予定である。
本研究では、Apollo12号で観測された深発月震で特に活動的な震源で発生したイベントを分類に用いた。まず、我々は代表的な教師有り機械学習法の一つであるSupport Vector Machine (SVM)を使用して、震源を分類する特徴量として時系列波形のみでなく、周波数成分でパワースペクトル密度(PSD)を与えてその有効性を確かめた。その結果、P波到達時刻から15分間のデータのPSDが最も震源分類に有効である事を示せた (Goto et al,. 2013, 加藤等, 2016)。また、代表的な5つの機械学習法を使用して、深発月震の震源分類に有効な手法を調べた結果、Neural Networkが最も有効である事が確かめられた (菊池等, 2016)。一方で、月震波形は一般に非常に振幅が小さく、また強い散乱を受けているため、特徴量の抽出が容易でないイベントも多い。深発月震は主に地球-太陽-月の位置関係(潮汐応力)に関与して発生する事が分かっている(e.g., Lammleign,1977)。そこで、我々は震源分類の特徴量で波形を使用しないものとして、月震の発震時刻における月と他の惑星間の位置関係について調べた。その結果、いくつかの深発月震源を切り分けるのに地球と月間のある特定方向における相対位置と速度が重要である事が分かった (加藤等, 2017)。
このような新しい特徴量、震源分類の方法はこれまで未分類であった深発月震イベントの震源同定に使用可能である事が示されている (菊池等,2017)。現在、位置が分かっている深発月震源の大部分は月の表側であり、裏側での深発月震源はわずかにしか発見されていない。一方、(Nakamura,2005)では、裏側起源と推定される月震イベントが1-2の観測点で検出されている事を述べている。もし、我々の手法を用いて未分類深発月震がこれらと同一震源である事が分かり、観測点数を増やせれば、走時解析から新たな裏側深発月震源を発見できる可能性がある。この場合、これまで未知であった月裏側の月震活動度や裏側内部構造などについて新たな制約を与えられ、月の二分性に関して重要な知見を得る事が期待できる。また、震源分類の新しい特徴量を用いて7年間の連続観測データから新たな深発月震を多数発見できれば、月震の発生周期と発生メカニズムに関して新たな情報を得る事も期待できる。加えて、SELENE-2 (Tanaka et al., 2008)やApproach (山田等, 2016)で代表される将来の月地震探査では1-2点の観測点に限られており、走時データのみから深発月震の震源位置を独立に決定するのが困難である。この際、月震発生時の月と惑星の位置関係から震源の同定が可能となれば、少数観測点でも将来探査で新たな走時データを得る事ができるようになる。本発表では上述した機械学習法による深発月震の分類結果を紹介すると供に、この手法の将来の月科学、探査への応用を報告する予定である。