16:00 〜 16:15
[PPS10-03] 天体表面でのレゴリスの粒子摩耗を模擬した石英粒子の摩耗実験と粒子3次元形状変化
キーワード:イトカワ、月、摩耗
小惑星イトカワや月の表面から持ち帰ったレゴリス粒子にはエッジの丸い粒子が見出され、機械的摩耗が起こったことが指摘されている [1,2]。水などの流体が存在しない天体における粒子の摩耗では、運動により粒子同士が擦れ合う必要がある。イトカワでは、粒子運動をもたらしたプロセスとして微隕石衝突で励起された地震波による振動[1]やYORP効果、潮汐力[3]などが挙げられている。本研究では粒子同士がこすれあった場合、どのように粒子自身の形状やエッジの形状が変化するかを明らかにするために、摩耗実験を行なった。
実験は、石英粒子を用いて、粉砕機(安井器械:マルチビーズショッカー)により行った。石英は隕石や月試料にはほとんど含まれていないが、かんらん石や輝石などと同程度の強度を持ち、多量のサンプルを容易に準備できることから、本研究では石英を選んだ。無色透明な石英(インド産)の単結晶を超硬合金乳鉢で粉砕し、1-2 mmの粒子を篩により選別した。この粒子約6.5 gをメノウ(石英微細結晶の集合体)製の容器(10 ml)に充填率が約50%となるように封入し、粉砕子を入れずに上下振動を伴う回転運動を行い、粒子同士が擦れ合うようにした。
本研究では、2種類の実験を行なった。実験1では、特定の回転速度(1500 rpm, 2500 rpm)において様々な時間(5分、30分、120分、180分)で実験を行なった。それぞれの実験について、摩耗により生成された粉(250μm以下の粒子)を篩により選別し、実験前後の粒子の質量の差から粉の質量を求めた。摩耗を受けた粒子の中から無作為に選んだ150個以上の粒子の3次元形状を、東北大学のX線CT装置により撮影した(管電圧140kV, 画素サイズ~14.5μm)。実験2では、着色した3種類の石英(紫水晶、黄水晶、黒水晶)単結晶を粉砕し、各2粒子(1-2 mm)を上記の石英粒子に混ぜた。実験1と同じ2種類の回転速度において、積算時間が1分、5分、10分、30分、60分、120分、180分となるように摩耗を行った。それぞれ時間毎に、着色粒子を取り出して、その3次元構造をSPring-8 BL20B2のマイクロX線CTを用いて高分解能で求めた (25keV, 画素サイズ2.75μm)。撮影した粒子は洗浄後、メノウ容器に戻し、摩耗サイクルを繰り返した。
個々の粒子のCT画像より、体積、表面積を求めるとともに、キャリパー法および楕円体近似法により3軸長を求め、3軸比、angularity(近似楕円体体積/粒子体積)、sphericity(粒子表面積/近似楕円体相当表面積)を求めた。実験2に関しては、CT像から3D模型を作成し、個々の粒子の3次元形状変化を求めた。実験1、実験2ともに、時間とともに摩耗による粉の生成量およびsphericityは増加し、粒子の体積、面積、angularityは減少した。これらの値の変化量はsphericityを除いて2500 rpmの方が1500 rpmより大きかった。また、その変化率は実験開始直後から30分程度で大きく減少した。一方、平均3軸比に関しては、実験1において、1500 rpmでは時間が経過してもほとんど変化しないが、2500 rpmでは平均3軸比が大きくなる(等方的になる)傾向が見られた。実験2では、個々の粒子の3軸比の変化の仕方はそれぞれ異なり、全体として実験1に見られるような3軸比変化の挙動が現れることが分かった。
着色により区別した個々の粒子形状の時間変化からは、2500 rpmでは主に粒子のエッジが欠けることにより、1500 rpmではエッジはほとんど欠けずに徐々にすり減ることにより、それぞれ摩耗が進行することがわかった。回転速度の違いによる今回の結果は、このような摩耗プロセスの違いにより説明できる。イトカワや月のレゴリス粒子の平均3軸比と比較すると、[4]で詳しく議論するように、イトカワ粒子は激しい摩耗プロセスを経験しておらず、月粒子はより激しい摩耗のプロセスを経験した可能性がある。
[1] Tsuchiyama et al. (2011) Science, 333: 1121. [2] Tsuchiyama et al. (2016) 4th Symp. Solar System Materials, abstract. [3] Connolly et al. (2015) EPS, 67: 12. [4] Tsuchiyama et al. (2017) JpGU, abstract.
実験は、石英粒子を用いて、粉砕機(安井器械:マルチビーズショッカー)により行った。石英は隕石や月試料にはほとんど含まれていないが、かんらん石や輝石などと同程度の強度を持ち、多量のサンプルを容易に準備できることから、本研究では石英を選んだ。無色透明な石英(インド産)の単結晶を超硬合金乳鉢で粉砕し、1-2 mmの粒子を篩により選別した。この粒子約6.5 gをメノウ(石英微細結晶の集合体)製の容器(10 ml)に充填率が約50%となるように封入し、粉砕子を入れずに上下振動を伴う回転運動を行い、粒子同士が擦れ合うようにした。
本研究では、2種類の実験を行なった。実験1では、特定の回転速度(1500 rpm, 2500 rpm)において様々な時間(5分、30分、120分、180分)で実験を行なった。それぞれの実験について、摩耗により生成された粉(250μm以下の粒子)を篩により選別し、実験前後の粒子の質量の差から粉の質量を求めた。摩耗を受けた粒子の中から無作為に選んだ150個以上の粒子の3次元形状を、東北大学のX線CT装置により撮影した(管電圧140kV, 画素サイズ~14.5μm)。実験2では、着色した3種類の石英(紫水晶、黄水晶、黒水晶)単結晶を粉砕し、各2粒子(1-2 mm)を上記の石英粒子に混ぜた。実験1と同じ2種類の回転速度において、積算時間が1分、5分、10分、30分、60分、120分、180分となるように摩耗を行った。それぞれ時間毎に、着色粒子を取り出して、その3次元構造をSPring-8 BL20B2のマイクロX線CTを用いて高分解能で求めた (25keV, 画素サイズ2.75μm)。撮影した粒子は洗浄後、メノウ容器に戻し、摩耗サイクルを繰り返した。
個々の粒子のCT画像より、体積、表面積を求めるとともに、キャリパー法および楕円体近似法により3軸長を求め、3軸比、angularity(近似楕円体体積/粒子体積)、sphericity(粒子表面積/近似楕円体相当表面積)を求めた。実験2に関しては、CT像から3D模型を作成し、個々の粒子の3次元形状変化を求めた。実験1、実験2ともに、時間とともに摩耗による粉の生成量およびsphericityは増加し、粒子の体積、面積、angularityは減少した。これらの値の変化量はsphericityを除いて2500 rpmの方が1500 rpmより大きかった。また、その変化率は実験開始直後から30分程度で大きく減少した。一方、平均3軸比に関しては、実験1において、1500 rpmでは時間が経過してもほとんど変化しないが、2500 rpmでは平均3軸比が大きくなる(等方的になる)傾向が見られた。実験2では、個々の粒子の3軸比の変化の仕方はそれぞれ異なり、全体として実験1に見られるような3軸比変化の挙動が現れることが分かった。
着色により区別した個々の粒子形状の時間変化からは、2500 rpmでは主に粒子のエッジが欠けることにより、1500 rpmではエッジはほとんど欠けずに徐々にすり減ることにより、それぞれ摩耗が進行することがわかった。回転速度の違いによる今回の結果は、このような摩耗プロセスの違いにより説明できる。イトカワや月のレゴリス粒子の平均3軸比と比較すると、[4]で詳しく議論するように、イトカワ粒子は激しい摩耗プロセスを経験しておらず、月粒子はより激しい摩耗のプロセスを経験した可能性がある。
[1] Tsuchiyama et al. (2011) Science, 333: 1121. [2] Tsuchiyama et al. (2016) 4th Symp. Solar System Materials, abstract. [3] Connolly et al. (2015) EPS, 67: 12. [4] Tsuchiyama et al. (2017) JpGU, abstract.